会社という人格はない
――Hackaradeをなぜ始めたのか教えていただけますか。
Hackaradeは、僕が技術部長とエンジニア統括マネージャの時に始めました。弊社は入社のためのスキルチェックをすごく厳しくしていて、優秀な人しか入って来られないようになっています。その優秀な人たちが、入った後にさらに成長できる会社になっているかと考えた時に、何かできることがあるのではないかと思ったのが最初のきっかけです。
――危機意識があったのですか。
危機認識があったというよりは、僕自身がそういう会社で働きたいのです。僕は優秀なエンジニアと一緒に仕事をしたいと常に思っています。自分がいちばん下手くそなくらい、優秀な人に囲まれて仕事をしたいのです。ということは、優秀な人たちがどんどん入って来なくてはいけない。そして、その人たちがどんどん成長していかないと、僕はこの会社が面白くなくなってしまうのです。だから、危機意識というよりは自分のためですね。僕が楽しく仕事をしていくためには、周りが優秀でないといけない。それは会社にとっても良いことだと自信を持って言えるので、やってもいいよねという思いがありました。
――各回のテーマ選びにもこだわりがあるのですか。
テーマ選びにはすごくこだわっていて、いつも悩んでいます。年に3回やると言っていたのに、去年は1回しかできませんでした。それもこれもテーマ選びが原因です。テーマは、「普段そんなに触っていない技術で、10年後にも役立つもの」と決めています。
例えば、4回目は「プログラミング言語を作る」というテーマにしました。普段、仕事でプログラムを書いている人にとって、プログラミング言語を作るというのは遠い世界の話に思うかもしれませんが、実際にやってみると普段やっていることとそんなに離れていないことがわかります。将来的にも役立つのでこれにしたのです。
――さらに成長できるという点がポイントなのですね。
そうですね。すぐに役に立つ技術というのは、みんな自主的に勉強します。仕事で必要だったり趣味でやりたくなったりして、すぐにやるのです。そして、みんな優秀だからできると思います。だから、Hackaradeでわざわざ取り上げる必要はありません。
――他にポイントはありますか。
必ず社内の人に講師をしてもらうことにしています。外部の講師にお願いをすると、使用するのがどうしても講義用のデータになってしまいます。逆に社員が講師をやると、社内のリアルなデータを使って講義ができます。後者のほうが受け身にならずに自分たちの事として考えられると思うので、社員が講師になれる題材を選んでいます。
――社内の他の人たちにとっても自分事にしやすいし、何かあればその人にも聞けるし、輪が広がるような気がします。また、10年後に役立つ技術ですから、Hackarade開催の効果測定をしているわけでもないのですね。
正直、していませんね(笑)。
――こうしたイベントは、会社としても案外開きづらい面があると思います。会社は、お金を出す以上何かしらのレスポンスを求めることが多いと思うのです。例えば、先日開催されたIoTをテーマとするHackaradeでは、ハードウェアを揃えたりするのに予算がかかったはずです。
「会社としてどうなの」とよく聞かれるのですが、会社という人格は存在しません。会社が禁止するとか会社が許さないとかいう話をする人がいますが、会社という意思を持った存在はいないのです。意思を持っているのは、常に上の誰かです。だから、Hacakaradeをやりたいと思った時、技術的なことなのでCTOに相談しました。そしてCTOを説得して「いいじゃん」となったら、部長陣にメールをして「ごめんなさい、1日だけ全エンジニアの業務が止まります。申し訳ないですが、みんなの今後のスキルアップのために必要だと思うのでぜひやらせてください」と伝え、OKをもらいました。
“会社”を説得したのではなく、ちゃんとしたルートで上の人に説明して開催したのです。意思決定ができる人を説得し、あとは周りの利害関係がある人を説得しただけです。そこに裏技はありません。会社のことを思って相談して怒られることはないし、クビになることもないので、思い切って言ってみればいいと思います。