成長のためのM&A
――IT企業の間でM&Aが急増しているそうですが、どういう理由でM&Aを実施する会社が多いのでしょうか。
笹川敏幸氏(以下、笹川):M&Aには大きく「吸収合併のパターン」と「第三者による子会社化のパターン」の2つがあります。手法でいうと、今は圧倒的に後者のほうが多いです。
30~40年前、日本のM&Aはほとんどが吸収合併でした。特にダイエーに代表されるように、小売店がすごい勢いでM&Aを繰り返していて、その時の手法はすべて吸収合併だったのです。当時は連結という考え方があまりなく、売上を伸ばすためには吸収合併をするしかありませんでした。
吸収合併は、M&Aの中で最も効果があるのは確かです。2つの企業が1つになるので、要らないものを強制的に排除できるなどのメリットがあり、すごく効果が上がる。その代わり、劇薬にもなりかねません。吸収合併を契機に変わってしまった社内風土と合わなくなり、人が辞めていくこともあるからです。
――そういう意味ではいわゆる合併ではなく、子会社化するケースも多いのでしょうか。
笹川:そうですね。株式の売却による子会社化が非常に増えています。弊社はこの子会社化も手がけていますが、取り扱うM&Aの目的の多くはあくまで第三者による事業承継です。
――子会社化による第三者承継の場合、親会社から誰かが経営者として子会社に行き、後を継ぐのでしょうか。
笹川:はい、その形が一番多いと思います。
岡﨑敬氏(以下、岡﨑):親会社から派遣するのですが、社長を常勤とするかはケースバイケースです。最近のIT企業に関していうと、子会社化された企業の中から代表取締役を出し、親会社からは社外取締役として取締役会を監視するという形が多いように思います。なぜなら、違う会社から役員がぞろぞろ入って違う文化を持ち込むと、軋轢が出やすいからです。また、親会社に派遣できる役員がいないということも深刻な理由の1つです。
――経営者も人材不足なのですね。IT企業の中でM&Aが急増している背景には、跡取りがいないという問題があるのですか。それとも別に理由があるのでしょうか。
岡﨑:パッケージベンダーの例でいうと、30年くらい前に会社を始めた企業が多く、経営者が高齢化しています。そうした企業は利益を出していることが多く、株価も高くなっています。無料で譲ると税務署が黙っていませんから贈与というわけにもいかず、社内で承継することが難しいと思います。
そうしたことが背景となって、最近お手伝いした中に、システム開発を手がける中小IT企業の若い2代目オーナー社長が同社を売却した例がありました。買収したのは、社会システム事業なども手がける大手IT企業です。IT業界は、経営者が売る例が他の業界に比べて多い印象があります。