ブランド力が通用しない中での採用という難題
──まずはデンソーにおける採用の状況や課題についてご紹介いただけますか。
坂口順規氏(以下、坂口) デンソーは「人と社会の幸せのために、新しい“できる”を実現する」というスローガンの下、2030年の目指す姿として「地球にやさしく、すべての人が安心と幸せを感じられるモビリティ社会の実現に向け、新たな価値を創造し続ける企業」を掲げています。その実現のために、広報は広報、人事は人事で課題感を持って、それぞれで活動を行いながらも方向としてはぶれずに、同じ目標に向かって邁進(まいしん)してきました。
そもそも、自動車業界は今まさに大きな技術的・市場的変革の最中にあり、業界の存続すら危ういといわれています。デンソーもまた、新しい価値を提供していかなければ生き残りは難しいという危機感の下、変革を担う人材の採用に力を入れてきました。特に近年は人事戦略の指針として、「実現力のプロフェッショナルを増やしていくこと」を掲げています。これまでデンソーが強みとしてきた高い技術・技能で物をつくり上げる「量産実現力」に加え、これから特に重要となるのが、自ら意味のある課題を形成し、価値や事業を共創する「事業実現力」で、これら2軸で人材の採用および育成を進めています。
山﨑奈都子氏(以下、山﨑) 業界変化に合わせてデンソーも変革すべきという認識は、全社共通のものになってきましたね。変革の担い手としてのマインドや能力を求めていくことはもちろんですが、対象とする領域についても従来の機械・電気だけでなく、ITやソフトウェアといった新しい分野にも広げつつあります。しかしながら、特に新卒採用は売り手市場で、ソフトウェア人材をはじめ、幅広い専門分野での人材の獲得合戦が激化しています。特にソフトウェアの領域では、就職先としてのデンソーの認知度が低いため、こちらから能動的にアプローチしていく必要があります。そこで、PR活動にはこれまで以上に力を入れていかなければならないと考えています。
坂口 そうですね。変革を生み出すための多様な人材、特にソフトウェア人材の採用を強化していること、そして、そうした人材に魅力を感じてもらえる場であることを広く伝えていく必要が生じています。
山﨑 そしてもう一つ、やはりコロナ禍の影響はとても大きいものがありました。これまで対面で実施してきた企業説明会などの採用イベントが全てオンラインへ移行したために、直接話をして魅力づけしたり関係性をつくったりすることが難しくなっています。デンソーはBtoBビジネスで、かつ事業の幅も広いため、学生さんが入社後のイメージを持ちづらいという課題がありました。コロナ前は「職場受け入れ型のインターンシップ」を通して、仕事内容や社風、働き方への理解を深めてもらっていましたが、それもこの2〜3年ほど実施できずにいます。
坂口 オンラインで広く多くの方に、デンソーで働くことの魅力を伝えられるような方法はないか、模索を続けてきましたが、他社に比べてもまだ十分とはいえず、その結果、エントリー数や内定承諾率がやや低下傾向にありました。そのような中、PR Tableさんにご相談する機会があり、採用ブランディングという考え方に基づいて、新たにオンライン上での取り組みを強化することにしたのです。
菅田一輝氏(以下、菅田) いまお話しされたような課題感は、デンソーさんだけでなく、自動車業界のあらゆる企業が持っているといって過言ではないと思います。自動車業界は、自動車というハードウェアだけでなく、自動運転や交通事故ゼロといった社会課題への取り組みを進めています。それらを推進するためには、従来採用してきた人だけでなく、ソフトウェアについてテクノロジー面やビジネス面の資質・スキルを持つ人が必要です。そうした人に働く場として意識してもらうには、これまでのブランドイメージから脱却し、新しいブランドイメージを確立させることが必須でしょう。業界全体でのリブランディングの中で、デンソーさんにもその必要性があると感じました。