組織ビジョンを言語化する重要性
秋山真(以下、秋山) まずは、組織ビジョンの言語化と重要性について。「組織ビジョン」ってあまり私は聞き慣れないのですが、お二人とお話しする中で共通して出てくるキーワードでした。人や働く場所が価値になっていく中、メルカリさん、LayerXさんでは組織ビジョンをどう捉え、それを言語化して発信する重要性をどう感じていますか。
岩田翔平氏(以下、岩田) メルカリの場合、組織が急拡大し、多様な考えを持ったメンバーが集まっていく中で、個人も組織もパフォーマンスを出していくためには、組織が目指したい方向性を示すことが重要だと考えていました。そこで、会社とメンバーが大事にする共通の価値観をまとめた「Culture Doc」をドラフトのような状態から社内でオープンにし、少しずつみんなの目線を合わせて、こういう行動がメルカリでは良しとされる・していきたいという内容をつくり上げてきました。組織全体のパフォーマンスを高めるためには、すごく必要なものだったと思います。
秋山 メルカリに組織ビジョンが必要になったタイミングはいつでしたか。
岩田 分かりやすいシーンでいうと、組織を拡大させていく中で外国籍のメンバーの採用を一気に強化したタイミングですね。それまで阿吽(あうん)の呼吸でつながっていたところが、指針を明確にしないと判断に迷うシーンが増えるという課題が出てきました。Culture Docのドラフトを作り始めたのもこのタイミングです。ドラフトは人事だけじゃなく、従業員の代表にも多く参加してもらって作成しました。このタイミングは必要性の面で適切でしたし、効果的でもあったと思っています。
柴山嶺氏(以下、柴山) LayerXは最近「LayerX羅針盤」というものを公開しました。閲覧数がすでに17万PVくらいあり、かなり注目していただいています。LayerXはもともとミッションや行動指針(バリュー)を大切にしている会社ではあるのですが、実際にどういった行動が良しとされるのかについては、他の企業と同様にかなりハイコンテキストになっていました。そこで、どういった行動が良しとされるのかを経営陣が言語化して、全社定例などで発表していました。それを改めてまとめたものが、LayerX羅針盤です。もともと社内向けに公開したものでしたが、事業のフェーズが少しずつ変わっていく中で、今後のLayerXらしさを知っていただきたいという思いを込めて、すぐに社外にも公開しました。
内容は、CEOの福島や松本が事業を立ち上げた想い、LayerXの戦略の考え方、代表の創業経験から成長企業が無意識に陥る「こうなったらだめ」ということを言語化した行動指針などです。メンバーは日々見ていますし、人事としてもカジュアル面談をするときに役に立っているので、社外向け・社内向けの両方に良いものだと思っています。
秋山 組織ビジョンがそもそもなかったら、どうなっていたと思いますか。
岩田 もし組織ビジョンがなかったとしたら、組織としての判断基準をメンバーが探しにいくことになったと思います。しかし、それは大変で非効率です。また、Culture Docでは採用時に大切にしていることや、人材成長面で大切にしていることなどを領域ごとに明確に定義していますが、このように言語化をしておくと、会社と個人との間で(こうあるべきという)期待値をすり合わせることができ、個人の中で勝手に期待が上がってしまうことも、企業側が過度に期待してしまうことも防ぐことができます。
柴山 期待値をそろえるのは、まさに必要だなと思います。会社がメンバーにどうあってほしいかとメンバー個人がどうあろうとするかという部分に乖離が生じるのは、本人にとっても会社にとっても不幸で、困惑したりストレスに感じたりするメンバーが出てきてしまう。入社のタイミングで会社の意思決定ってこうだよね、自分としての意思決定もこうだよね、と行動指針を介して基準や目線を合わせることは重要ですね。