なぜいま「採用広報」を大企業が行う必要があるか
はじめに「採用広報」が何を指しているかだが、PR Tableの記事「採用広報とは?目的や取り組みのポイントについて解説」では次のように定義している。
企業が求職者や学生に対して行う広報活動のひとつです。社外広報の一環で、採用を目的に業界情報や、企業情報を発信していくことであり、採用サイトや合同説明会、求人情報の掲載といった活動も含まれます。
近年はWantedlyのようなインタビュー記事を特徴とする採用媒体や、noteのようにかんたんに自社のオウンドメディアを立ち上げられるサービスなどの影響もあり、記事コンテンツを通じた自社での情報発信が採用広報施策として目立ってはいる。しかし、大企業が取り組むべき採用広報の定義としては、「採用目的であれば施策の種類は問わない」という点がポイントとして挙げられる。実際に、採用広報に積極的な大企業においては、記事コンテンツの発信はもちろん、メディアへの露出やWeb広告出稿、採用イベントの実施や動画配信など幅広い施策を展開している。
そもそも、知名度のある大企業がなぜ採用広報に取り組む必要があるのか。本稿では2つの観点を挙げたい。
①企業の認知度とデジタル人材採用成功は比例しない
大企業はメディアの露出も多く、歴史も長い企業が比較的多いため、企業名や事業内容については知られているケースが多い。
一方で規模が大きく、事業や取り組みの複雑性も高いため、「小売業」「自動車製造業」のようなカテゴリー認知にとどまり、具体的な取り組みや、新しい事業などの企業変革の動きについては知られていないケースが多い。とりわけデジタル人材を採用したい部門は、新規事業やリモートワーク浸透に向けたインフラ整備などを黒子として支える部門も多いため、そもそも情報発信が乏しく、候補者が知りたい「生の情報」を出せているところは非常に少ないのが現状である。
②社外ステークホルダーの理解促進が採用成否を分ける鍵
採用ポジション数が多い大企業は、非常にたくさんの採用施策を行っている。そのため、採用媒体や人材紹介会社、広告代理店など、社外ステークホルダーも多く抱えており、このステークホルダーにも自社そして各求人への理解を促すことが採用の成否に深く関係する。採用広報の取り組みは、採用ステークホルダーの理解にも貢献ができる。
ここでは、採用に関して理解を促すべきステークホルダーの代表的な例として人材紹介会社を挙げたい。PR Tableが行った「大企業の採用広報における課題調査」によると、72.6%が人材紹介会社を利用しており、2位のナビサイトを10ポイント以上離して、大企業の採用施策のトップである。
一方で、大企業を担当する人材紹介会社勤務者にインタビューをすると、大企業を担当する特有の課題も挙がる。具体的には、「(現場と採用部門が遠く)募集ポジションの解像度が低い」「企業側の言っていることを理解するのがたいへん」などである。これらは企業規模の大きさや事業の複雑性にも起因するが、DX分野などのデジタル領域の場合には専門性が高く、職種や業務の理解がさらに難しいことが要因となっている。
ただ、人材紹介会社の担当者も手をこまねいているばかりではなく、採用Webサイトの記載データや社員インタビューなど[1]から魅力を抽出し、職種や事業の理解を深めているという。採用広報施策で発信する情報は、ステークホルダーが企業や事業を理解してもらう面でも寄与していることがうかがえる。
注
[1]: IT系のスタートアップ企業などには自律的な情報取得につながるよう、エンジニアやデザイナーなどの職種別の会社説明資料を公開する例もある。