人事未経験だった武山氏に期待したこと
——前職、ファーストリテイリングに入社されるに至るまでの経緯を教えていただけますか。
まず新卒で三菱商事に入社し、主にリスクマネジメント部で与信管理を担当しました。ボストン コンサルティング グループへ転職してからは、金融やエネルギー業界を中心に経営コンサルタントとして、主に中期経営計画の作成や新規事業開発、コスト削減などに携わりました。
その後、プライベートで子供ができたのをきっかけに、ワークライフバランスの見直しで転職を考えるようになりました。ただ、ボストン コンサルティング グループでは経営者との仕事にやりがいを感じていたので、次も尊敬できる経営者の近くで働きたいなと。すると、転職エージェントから「柳井社長の近くで働くのはどうか?」と提案をいただきました。ユニクロの柳井社長といえば、言うまでもなくすばらしい経営者です。そのチャンスに対して「面白そうだ、挑戦してみたい」とお受けしたのです。そして、ファーストリテイリングとの面接後にあらためて「人事をやってみないか」と打診されました。
——ファーストリテイリングでは、武山さんに何を期待されていたと思いますか?
当時のファーストリテイリングは、グローバル化に向けた全社改革「有明プロジェクト」がまさに始まったタイミングでした。当然、全社改革の中には、組織人事の改革も含まれます。ところが、その時点でまだ組織人事の構想まで着手できておらず、その中核を担える人材を探していたようです。
組織人事の改革には、経営全体や事業との連動が欠かせません。そのため人事担当者であっても経営とは何か、事業とは何かを深く理解し、経営者や事業責任者の意図を正しく把握できること。加えて、人事改革には経営側と現場との間でハレーションが生まれるケースがあるため、会社全体での合意形成を図れるコミュニケーション力や、硬軟織り交ぜて時には厳しく、時には現場に寄り添いながら組織集団をうまく動かしていくスキルが求められていました。
もちろん人事や組織に関する専門性や知見は必要です。しかし、それは既存の人事部や社外の専門家から知見を借りてくることはできると。それよりも私自身の経営コンサルタントとして全社的な改革を推進してきた経験やスキルに加えて、人となりの部分を見込んで採用に至ったというお話を聞いております。
——人事経験者を求めていたわけではなく、改革を推進できる人を必要としていたんですね。
そうですね。一方でカルチャー面も大きく影響していると思います。ファーストリテイリングでは、いちスタッフであっても経営者のマインドを持って、お客様のため、会社全体のために一生懸命考えて仕事をするという「全員経営」を掲げています。
そういった想いがある中で、過去の経験や専門性で人を見るのではなく、ポテンシャルやセンスがあるかどうかで人を見る。つまり、経験がなくても、他で尖ったものや活きるところがあれば大胆にやらせてみようという土壌が前提としてありました。それが30歳そこそこで人事未経験の私でも課長職からの採用につながったのだと思います。
皆さんの中には、ユニクロは完全に実力主義の会社だというイメージがあるかもしれません。そのとおり、本社の中枢であっても例外なく実力主義なんだと身をもって感じました。