柳井社長から学んだマネジメントで大事なこと
——前編では、ファーストリテイリングに在任した5年間に取り組まれた施策として、グローバル人材の育成やグローバル全体でのタレントマネジメントの仕組みづくり、そして有明プロジェクトである本社の組織構造改革について伺ってきました。改めて当時を振り返り、柳井社長の近くで学んだことや印象に残っている教えには何がありますか。
本当に多くのことを学びましたが、ここでは柳井社長の人間観につながるお話をさせていただきます。柳井社長は、あらゆる場面で「本来、人間はもっとできることや、やれることがあるはずなのに、ほとんどの人間は自分の才能に蓋をしている。才能を出し切れておらずもったいない」とおっしゃっていたことが印象に残っています。
これは、自ら才能に蓋をしてしまうこともあれば、上司部下の関係で起きることもあります。たとえば上司は、部下に対して自分よりも才能がある、自分よりも実力があると思わずに「頑張って110点を目指そう」と目標を与えてしまうケースです。本来、部下は150点を目指せる実力があるにもかかわらず、上司本人が130点のために自分よりも上を目指せると思っていないのです。そういったことは日本企業特有の年功序列の組織で実際に起きています。
このように周りから「ダメ、できない」と言われたり、あるいは自ら失敗を怖れたり、失敗が恥ずかしいと思ったりと、さまざまな理由で自分の可能性に蓋をしてしまう。しかしそうではなく、「本当はもっと自分はできるんじゃないか」という発想でチャレンジすることや、周りに主張していくことが大事です。
一方、会社や上司は「部下は自分よりも優秀かもしれない。将来、社長になる人間なのかもしれない」という前提で人のポテンシャルや才能を信じ、伸ばしていく必要があります。そうしなければ、優秀な人であればあるほど違うフィールドを求めて離職してしまうでしょう。
——おっしゃるとおり、自分よりも経験が浅い分、上司は未熟な存在という前提で部下に接してしまうことはありそうです。
そうですね。自分の立場がどんどん上がり、部下や後輩から教えやアドバイスを乞われる立場になると、自分よりも下という前提で接してしまうことはあると思うんです。でも、それは経験の差であって、知らないことを上司に聞くことは当然です。しかし、教える側が相手は自分よりも優秀かもしれないという気持ちでいなければ、部下はいつまでたっても「自分は未熟だ。上司と比べて、自分は優秀じゃないんだ」と自分の才能に蓋をすることになります。
それよりも、上司は「あなたはもっとすごいんだよ。あなたならできるでしょう」という姿勢でいるほうが、部下は成長していく。会社全体でそういった風土があれば組織の強さにもつながります。それは柳井社長から学んだことであり、私自身も最近よく考えていることです。