2010年に目標を掲げるも取得者はゼロ
カンロの男性育休を取得推進するための取り組みは、2005年施行の「次世代育成対策支援法」がきっかけだという。事業主として育児支援に対する行動計画を立てる必要が生じた同社は、2010年に「男性の育児休業取得者を1人以上出す」と目標を掲げた。
しかし、「育休は女性が取るもの」「給与が減額されるなら年次有給休暇を取ったほうがよい」といった雰囲気や、「配偶者が出産したときに取得できる2日間の特別有給休暇で十分」という反応があり、当時の育休取得率は0%であった。人事部による働きかけも、該当者がいれば声がけをする程度であったという。しかし、10年間の時限立法だった「次世代育成対策支援法」が2015年に改正されて、さらに延長したことを機に、人事部主導の男性育休の取得推進プロジェクトを2016年に発足させた。
取得率100%を実現した取り組みとは
プロジェクトの開始時から携わってきた北島氏は、「当初は2日間の有給での育休制度を新設することからはじめました。4月に規程を変えて、5月には1人目の育休取得があり、有給となると取りやすくなるという雰囲気の変化を感じました。その後、コンスタントに取得者が出てきたのですが、人数は増えず、まだまだ取得しないほうが『普通』という雰囲気がありました」と振り返る。
その後、2018年にダイバーシティ推進室が立ち上がり、ハンドブックやライフステージサポート一覧などを作成し「制度の周知」に注力したことで少しずつ取得率は上がり、徐々に長期間の育児休業取得者も出てきたという。2022年4月の法改正で、妊娠・出産の申し出をした社員に対する育休制度の個別の周知・意向確認の措置が義務となることもあり、人事部として申し出を積極的に促すようになった。「育休サポート100」のスローガンを掲げ、Web社内報などでツールの紹介や申し出の必要性を知らせたり、個別面談などで直接アプローチをしたりといった取り組みを、現在まで継続的に行っている。
ただ、それでも男性社員の意識は急に変わるものではなく、組織の環境ごと変わる必要があると感じた。
「そこで、2022年から育休対象者の上長や所属長に、男性育休の制度や目的などを案内し、該当する方に取得を促してもらえるように働きかけました。それが功を奏して、ほとんどの申し出が、人事部の申請窓口でなく上長経由で来るようになりました。1人ひとりに対して、身近な上司から声がけを行ったこと。それが男性育休100%取得に至る原動力になったと思います」(北島氏)
制度の周知、個別申請の依頼、そして上長や所属長からの声がけの要請と徐々に施策を増やし、その結果、取得者が増えてきたことで、「自分も育休を取得しよう」と考える人が増えてきた。すでに若い世代は「男性育休は当然」という認識になりつつあるという。
現在は、該当する男性社員のほぼ全員が育児休暇を取得しており、期間も2割相当が1ヵ月以上取得している。2022年度の育休取得率(配偶者が出産した人に対して、育児休暇取得人数の割合)は123.5%と100%を超えた[1]。
注
[1]: 出産前後だけでなく、生まれた翌年に育休を取得することもあるため。