一般労働者派遣と特定労働者派遣は何が違う?
「大きな違いとしてまず挙げられるのが、労働者と派遣元(=派遣会社)との契約形態です」(マッチングッド 齋藤氏)
一般労働者派遣事業は、労働者が派遣会社に登録し、派遣先企業への就業が決まった時にだけ雇用が発生する契約形態。「登録型派遣」とも呼ばれ、労働者は派遣先との契約が終了したとき、次の派遣先が決まっていなければ派遣会社との雇用契約もいったん終了する。「一般派遣は有期契約なので、派遣先が十分な給与を支払えなくなった時などに労働者の生活を守る必要があります」と齋藤氏。そのために一般労働者派遣事業所となるには「資産要件(純資産2000万円、現預金1500万円)」などの基準を満たしていなければならないという。
一方、今年9月末で廃止になる特定労働者派遣事業は、派遣会社が無期雇用した労働者を、案件ごとにクライアント先に派遣するというもの。いわゆる「常用雇用型派遣」で、一般派遣と異なり、労働者は派遣先との派遣契約が終了しても、派遣会社との雇用契約はなくならない。「特定労働者派遣で働く人材は、正社員と同等に保護されているという認識。だから届け出る際、資産要件などの基準はない」(齋藤氏)。特定労働者派遣事業所は届け出さえ出せば、派遣業務を行うことが可能だ。
そのほか両者の違う部分として挙げられるのは、一般労働者派遣業者は登録者に「教育訓練」をする義務がある点。eラーニングなどを使い、派遣社員の教育をしなければならない。登録時はスキルの低い人材であっても教育を施して単価の高い働き手となってもらうことで、失業率が下げられるだけでなくその派遣会社の成長につながるエコシステムになっているという 。
特定派遣事業はなぜ始まったのか
特定労働者派遣事業は、法律で定められたソフトウェア開発、機械設計など専門的な全26職種向けの派遣事業。業務内容に専門性が問われる分、「常時雇用」を前提として始まった。
特定派遣事業が制定された当初は「一般労働者派遣だと資産要件などの条件が厳しいからという理由のほかに、派遣社員から見た時に派遣先の仕事が終わった後も、新たな派遣先で仕事をするか、派遣会社に戻って就労するかを選択できて利便性が高かった」と齋藤氏は考える。
特定労働者派遣の制定により、恩恵を受けた業界は主にIT業界。派遣エンジニアの約半数が特定労働者派遣事業所に就業しているという。その理由を齋藤氏は「IT業界のなかでもSIerのプロジェクトは、プロジェクトによって必要とされる人員リソースが量質ともに大幅に変動するため、派遣先から見た時に自社で採用するよりも派遣を利用したほうが、リスクが少ないという利点があった」と分析。請負だと指揮命令権がないが、特定労働者派遣であれば、派遣先の会社が派遣社員を自由に配置し直接指示することができる点が、IT業界の働き方と合致したとみる。
また、エンジニアが特定労働者派遣での働き方を選ぶ理由は、一般労働者派遣に比べ、案件あたりの単価が高く設定されていることが多いため。一般労働者派遣の場合、教育訓練義務など、給与のほかにもコストがかかってしまうことから、労働者に還元できる給与も下がる構造になっている。一方、特定労働者派遣事業では職務訓練の義務はなく、教育など中間コストがかからないため、労働者に還元する給与は高く設定できていたという。