従来の適性検査では「すぐ離職」が止まらなかった
――人事の現場では、よく「カルチャーが合う・合わない」という表現が使われますが、そもそも組織カルチャーとは、何なのでしょうか?
カルチャーの定義は曖昧です。言語化しやすいものもあれば、まったく見えていないものもあって、実態はつかめていません。見えにくいカルチャーとしては、例えば「来客時に社員があいさつをする」とか「ゴミを拾う」といった共通の価値観として無意識に定着しているものもあれば、経営者の考え方によって植えつけられたものもあります。職種や組織構造によっても、カルチャーは変わってきますよね。
INOBERでは、組織にいる一人ひとりの性格特性やキャリアに対する価値観、行動特性といったものをデータ化することで、組織全体の特性、人の偏りなどの傾向を可視化するところから始めています。
――具体的に、どのような仕組みで個人のパーソナリティを見える化しているのですか?
組織心理学に基づいた30個のパラメータ[1]をもとに、独自開発のアルゴリズムによって解析しています。大枠である“人物イメージ”について言えば、「基本的な特徴」と「仕事面の特徴」が判定されます。「基本的な特徴」では「内向性・外向性」「控えめ・主張が強い」「諦めが早い・粘り強い」「敏感・おおらか」「独自性・親和性が強い」という6つの指標について見ることができ、「仕事面の特徴」では「専門職・管理職」「安定・リスクを取る」「個人志向・組織志向」「論理・直感」「マニュアル志向・アイデア志向」の5つの指標について、それぞれどちらにどれくらい寄っているのかを知ることができます。
――山田さんがINOBERを作ろうと思われた理由を教えてください。
もともと私は人材系のエージェントで働いていたのですが、適性検査や面接など必要なプロセスをいくらきちんと踏んでいても、紹介した方がすぐに辞めてしまうことがありました。人材紹介会社に頼もうが、自社で採用しようが、関係なくて。それって、企業にとっても求職者の方にとっても、お互いにロスでしかありません。あとはマクロ的に見ても、就労人口が減少の一途をたどる中で、採用におけるミスマッチをなくすことが重大な課題となっています。そこを何とか解決したいと思い、INOBERを作りました。
――適性検査といえば採用時に行うものというイメージですが、INOBERはどのような活用シーンを想定されていますか?
基本的に、INOBERは求職者の方だけでなく、企業内で働く人全員に受けていただくことを推奨しています。社内の政治的にトップダウンでないと、なかなか全社員に受けさせるのは難しいところではあるのですが。
これまでの採用時に行う適性検査では、求職者をふるいに掛けることに主眼が置かれてきました。しかし、そもそも適性検査の結果に良い悪いはありません。誰しも、強みもあれば、弱みもあります。要は、組み合わせなんです。うまく補完し合えるように組み合わせるには、外から入ってくる人だけを調べてもあまり意味がありません。社員やマネジメント層との価値観が合うか合わないかを可視化し、確認することが大切だと考えています。
――実際に、INOBERをそのように使った企業はあるのですか?
はい。ある会社で求職者の方と上司となる部長の方との相性を見極めて、2人採用に至ったケースがあります。その会社ではパフォーマンスのスコアを取り入れ、活躍している人はどのようなタイプなのか、この部門にはどのような傾向の人が多いのかを、あらかじめINOBERを使って洗い出していました。また、事前に「この人が入ってきたら、こういう部署になるだろう」とか「この人はこういう役割を果たしてくれそうだ」ということがわかっているので、組織に馴染んでもらうのも早かったという結果が出ています。
――求職者としても、自分にどんな期待が寄せられているのかわかっているほうが、きっとやりやすいでしょうね。
そうなんです。「上司になる人がこういうタイプなので、ここでコミュニケーションのミスマッチが起きやすい」という情報をあらかじめ得ることができれば、そこを気をつけることができますから。受け入れる企業側も「この人はこういうところにモチベーションの所在があるのだな」とわかっていれば、対応しやすいはずです。
注
[1]: 30個のパラメータ……ビッグファイブ(外向性、協調性、良識性、情緒安定性、知的好奇心)、ビッグファイブに関連する因子(活動性、アサーション、協働性、共感性、達成動機、自己統制、意志の強さ、気分安定性、自己肯定性、敏感性、発想力、柔軟性、進取性)、キャリア志向性(スペシャリスト、ゼネラルマネージャー、自主・自律、保障・安全、起業家的創造性、社会貢献、挑戦、ワークライフバランス)、思考スタイル(論理思考、直感思考、感覚思考、現実思考)