「ベテラン社員なら異動はスムーズにいくだろう」は間違った思い込み
今回は「5人の異動者」のケースを具体的に紹介しながら、異動者のオンボーディングについて考えていきます。最初に登場するのは、ベテラン社員のAさんとBさんです。「ベテラン社員なら異動はスムーズにいくだろう」と思ってしまいがちですが、そんなことはありません。ベテラン社員であっても異動は決して楽ではないのです。
そもそも、「ベテラン社員なら異動はスムーズにいくだろう」という間違った思い込みが、オンボーディングの壁になります。多くの人がベテラン異動者は即戦力で、すぐに立ち上がってほしいし、すぐに立ち上がってくれるはずと考えています。それだけでなく、「お手並み拝見」とベテラン異動者を値踏みする人も少なくありません。
しかしベテラン異動者であっても、多くの場合はオンボーディングの期間が必要で、マネジャーや周囲の支援があったほうがよいのです。たとえば、ベテラン社員のAさんは、新しい部署への異動直後はなかなか成果を出せませんでした。初めて経験する業務で、誰に何を聞けばいいのかピンと来なかったために、自分らしく仕事を進められず、無理をしたことがあったそうです。功を焦り、自分の過去の勝ちパターンにすがりたくなったこともありました。絶対に成功してやるという思いが強いものの、自分の思うように仕事を進めることができず、しんどくなったこともあったといいます。実はこれらはすべて「ベテラン異動者のあるある」です。
同じくベテラン社員のBさんも、異動した当初は焦りが募ったそうです。異動先のベテラン社員は途方もない実力の持ち主で、優秀な若手社員も多いうえ、同期配属者が早期から活躍したからです。また、これもベテラン異動者にありがちなことですが、異動先の周囲がなかなか踏み込んできてくれず、新しい職場での人間関係の構築に苦労したといいます。ベテラン異動者は、このように周囲からケアすべき対象から外されるケースがよくあります。
ベテラン社員であっても、異動後はこのように「職場風土の壁」や「キャリア・成長の壁」に直面する傾向があります。特に、「周囲のレベルに自分が影響力を発揮していけるかどうか不安を感じる」ケースが多いようです。「仕事の壁」もないわけではなく、即戦力としてすぐに活躍するのは決して簡単ではありません。これらの壁を乗り越え、自身の持っている力を存分に発揮してもらうためには、マネジャーや周囲が、焦らずベテラン異動者を信じて任せること、ベテラン異動者に積極的に関わって支援することが大切です。
実際、AさんもBさんも異動後1年目に周囲の支援を得てしっかりと学ぶことができ、目の前の業務に集中できました。人間関係も良好になったため、2年目からは大活躍しました。このように、周囲の支援を得て3つの壁を克服できれば、ベテラン異動者は期待したい本来の実力を発揮し活躍してくれる可能性は高まっていきます。

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