ベンチャー企業が直面する採用の壁
同社は、リテール業界に特化したDXソリューションを提供する企業だ。従業員数は連結361名、売上高は325億円(2025年8月期)と、現場社員1人当たり1億円以上の売上を誇る。
「非連続な成長を志向する中では、内部任用だけではポジションを担う人材が足りなくなってきます。事業責任者やブランドマネージャーに加え、『経営チームをもう1チームつくる』を合言葉に、経営メンバーとして事業を任せられる事業責任者候補人材や次世代経営人材の採用にも力を入れています」(松尾氏)
松尾 奈美(まつお なみ)氏
株式会社イングリウッド 執行役員兼CHRO
2006年株式会社リクルート入社。人事、経営企画を経て、株式会社リクルートテクノロジーズにて人事・広報・企画統括等に従事し、エンジニア組織の急拡大を牽引。その後、経済同友会への出向を経て、リクルートのプロダクト部門広報部長として社内外のコミュニケーション活性化に従事。2024年より株式会社イングリウッドにて人事・広報を管掌。
会社の最重要アジェンダに採用が位置付けられている同社。新卒約50名と、中途50名以上の計100名以上を年間で採用しているという。
「当社は2020年から新卒採用を開始しました。当時入社した社員が現在はマネージャーなどの要職を担うまでに成長しており、こうした手応えから、現在はさらに新卒採用を強化しています」(松尾氏)
「能力はもちろんのこと、人柄やマインドも非常に優秀な学生に入社してもらっている」と自信をのぞかせる松尾氏。さらに、中途で入社する人材も、大手企業出身者から起業経験者まで、各領域のプロフェッショナルが幅広くそろっている。
なぜ同社は、激化する採用競争の中で、ハイポテンシャルの新卒社員や即戦力のプロフェッショナル中途社員を数多く採用できるのだろうか。
“勝てるポイント”に集中する
松尾氏はまず、ベンチャー企業が直面する採用の壁として、「知名度・予算・リソースの不足」「年々過熱する売り手市場」「採用力の強い一部の企業に人材が集中する採用の二極化」を挙げた。
「これらの壁は、正攻法では太刀打ちできません。普通にやっていたら普通の採用もできない。そうした状況の中で、どう戦うべきかを考えました」(松尾氏)
そこで参考にしたのが「ランチェスター戦略」だ。豊富なリソースを持つ強者は、全方位にリーチを広げて物質と資本で圧倒できるだろう。しかしチャレンジャーが同じ戦い方をしても勝ち目はない。
「チャレンジャーが大事にすべきなのは、戦う場所を特定の場所に絞る、そしてそこに対して圧倒的に濃い密度で確実に勝つということ。この一点突破を重ねていくことが、当社の『集中突破の採用戦略』なのです」(松尾氏)
では、同社は“勝てるポイント”をどこに絞ったのだろうか。
松尾氏はまず、自社の弱みと採用マーケットの脅威を直視したうえで、自社の強みと市場の機会を見出す必要があると述べる。
同社の弱みは、第一想起に入らない知名度の低さやリソースの制約であった。一方で強みとしては、リテールDXに関する幅広いポジションと活躍できる機会があり、ベンチャー企業として成長環境を提供できる点が挙げられる。また、経営陣から現場まで全社一丸となって採用に取り組むマインドが醸成されていることも大きな武器であった。
また、採用マーケットに目を向けると、どこへ行っても通用するスキルを身に付けられる環境を求める学生が急増しており、彼らはリアルな情報や企業との深い対話を求めていることを感じていた。
同社は、これらの強みと機会を掛け合わせた部分こそが、自社の勝てるポイントだと定義。採用プロセスの各段階において何を捨てて何にフォーカスするかを明確にしたのである。

