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人事労務事件簿 | #3a

上司のパワハラと自殺に関する安全配慮義務違反(徳島地裁 平成30年7月9日)《前編》


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 時に人を死に追いやるパワーハラスメント。今回ご紹介するのも、職場で上長が部下を追い込み、自殺させてしまったケースです。上長は部下に何をしたのか。あるいは、何をしなかったのか。裁判では何が問われたのか。事件の経緯から裁判所の判断、関連する資料まで前後編で紹介します。

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1. 事件の概要

 ある銀行(以下「被告」)の亡従業員(以下「一郎」)の相続人(以下「原告」)が、被告に対し、一郎が被告の他の従業員からパワーハラスメント(パワハラ)を受けて自殺したと主張して、一郎の被告に対する使用者責任又は雇用契約上の義務違反による債務不履行責任に基づく損害賠償を請求した事件です。裁判では被告の使用者責任は認めませんでしたが、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任は認めました。

 事件の概要は以下のとおりです。

(1)当事者等

① 一郎は、被告のA地域センターお客さまサービス課で勤務していました。
 平成25年7月1日付けでC貯金事務センター総務課に異動となり、翌8月1日以降、同センターの貯金申込課(以下「貯金申込課」)主任となり、運行担当の業務に従事していましたが、平成27年6月、実家の居室で自殺しました(死亡時43歳)。
 原告は、一郎の母です。

② 貯金申込課の課長は、一郎の配属後から平成27年3月まではD(以下「D課長」)であり、同年4月以降、一郎死亡時まではE(以下「E課長」)でした。
 また、貯金申込課の運行担当には、係長、主査2名、主任2名、期間雇用社員数名が所属しており、一郎の配属時から平成27年6月までの係長はF(以下「F係長」)であり、主査はG(以下「G主査」)およびH(以下「H主査」)でした。
 運行担当では、一郎の右横にG主査の席が、G主査の前にH主査の席があり、G主査およびH主査の横にF係長の席がありました。また、D課長(平成27年4月以降はE課長)の斜め前に一郎の席があり、D課長は、―郎を含め運行担当の職員が見える位置に座って職務を行っていました。

③ I(以下「I」)は、C貯金事務センターに期間雇用従業員として勤務していた者であり、運行担当に配属され、一郎と同じ職場で就労していました。

(2)運行担当の業務内容等

① 平成27年6月当時、運行担当の主な業務は、国債に関する業務や年金恩給に関する業務等であり、また、事務処理の合問に郵便局からの電話応対をする必要もありました。

② 午後2時頃に行われるミーティングにおいて、担当者各自が進捗状況を報告し、各自がその日に事務処理を終わらせることが難しいものは、係長が運行担当の他の社員へ振り分け、残業および翌日への持ち越し等の方策を指示することとしていました。

③ 事務処理上のミスを発生させた従業員は、ミスの内容やその原因、改善点等を記載した「ありがとうシート」と題する報告書を作成し、翌日の朝のミーティングで報告することになっていました。

(3)被告におけるハラスメント等に対する態勢

 社内外にハラスメントに関する相談窓口や内部通報窓口を設置し、事業所内にその連絡先等が掲示され、社員が相談・報告できることになっていました。

 また、C貯金事務センターにおいては、従業員が気づいた内容を「気づきメモ」に記載して目安箱(投書箱)に入れ、投書された内容が被告の対応を求めるものであれば、被告において検討のうえ、ミーティング等を通じて、その対応内容を従業員に周知することになっていました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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