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人事労務事件簿 | #51

障害者職員への過大な業務負荷について、安全配慮義務違反と判断(奈良地裁 令和4年7月15日)

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 障害者を雇用する場合、その障害に応じた業務上の配慮が事業者に求められます。今回取り上げる事案は、足の関節に障害のある職員に正座が必要な業務に就かせるなどで、市が安全配慮義務違反等で訴えられたものです。原告の職員は訴える前に自身の障害を理由に異動希望を出していました。

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1. 事件の概要

 本件は、原告(以下「X」)が、被告(以下「Y市」)に対し、安全配慮義務違反等(Xの右足首の障害に配慮せずに業務に就かせたことなど)に基づき、損害金等の支払いを求めた事案です。

 今回はさまざまな争点から、安全配慮義務違反について取り上げます。

(1)Xの当初の勤務状況

 Xは、昭和36年生の男性で、昭和56年5月ごろ、高松市において交通事故に遭い(以下「先行事故」)、右腓骨(ひこつ)骨折の傷害により、約2ヵ月間入院していた経緯があります。

 その後、Xは、昭和61年4月1日、一般職職員としてY市に採用されました。

 のちに、平成2年4月1日付でA課に配属され、保険料徴収事務に携わり、平成8年4月1日付でB課に配属され、市税の徴収業務に携わりました。市税の徴収業務では、未納者を訪問して督促するなど、庁舎外での勤務がありました。

(2)事故と障害

 Xは、平成9年5月18日、奈良県北葛城郡C町において交通事故に遭い、右足関節捻挫や右大腿部打撲などの傷害を負いました(以下「本件事故」)。

 Xは、平成10年10月15日、R病院において、右足関節機能全廃(原因となった疾病は、先行事故による右足関節内骨折)との診断を受けました。

 Xは、自賠責共済において、右足関節機能障害により、自賠責法施行令別表第2の後遺障害等級12級12号の認定を受けました。

 翌年11月2日には、奈良県から右足関節機能障害5級の身体障害者手帳の交付を受けています。

 同年12月17日、H診療所において、右足関節機能障害(平成9年6月18日症状固定)、足関節痛の訴えに対し、時々、消炎鎮痛剤の投与を行っている旨の診断を受けました。

(3)Xの事故後の勤務状況

 Xは、B課に勤務している間は、時々、足関節痛につき消炎鎮痛剤の投与を受けることもありましたが、右足について特別な違和感を覚えたり、痛みを感じたりすることはありませんでした。

 Xは、平成16年4月1日、D課に配属されましたが、右足への負担は少なく、業務等に特段の支障はありませんでした。

 Xは、平成17年4月1日、E課E1係に配属され、ケースワーカーとして生活保護受給者の自宅を訪問する業務に、多くの時間を費やすようになりました。

 Xの生活保護受給者の自宅訪問の回数は、平成19年、20年ともに、それぞれ400回を大きく上回っていました。なお、同じ時期の他のケースワーカーの訪問数は、平成19年度が172回~309回、平成20年が111回~335回でした。

 ケースワーカーが家庭訪問する場合、公用車に乗り合わせる場合が多く、徒歩による訪問は少ない状況でした。なお、E課から公用車のある駐車場までの距離は、約100メートルでした。

 通常は家に上がって話をすることが多いですが、玄関先や玄関の上り口で話をすることもありました。

 家に上がったときには畳の上に座って話をすることが多く、男子職員は正座することは少ないものの、話の内容によっては正座をすることもありました。滞在時間は、数分のこともあれば、1時間以上に及ぶこともありました。

 Xは、E課に配属されたころから右足に違和感や疼痛を覚えるようになり、同僚や上司から見ても、右足をかばって不自然な歩き方をしていたことが看取できる状態となりました。

 平成17年4月1日以降E課長であったUは、Xの右足の状態からE課の勤務は難しいとの認識に至り、人事課の職員にその旨を伝えました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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