「母集団が足りない」の課題の本質
──伊藤さん、土田さんは日ごろからさまざまな企業の採用担当者に会い、採用における課題を伺っているかと思います。どのような声が多いのでしょうか。
土田泰弘氏(以下、土田) やはり「母集団形成が難しい」という声がとても多いです。もちろん、そもそもの労働人口の減少などの背景はあると思いますが、よりよい採用を目指すうえでどの企業様でも課題として挙がりやすい状況です。
伊藤豪氏(以下、伊藤) 人事の方は、「母集団を増やすことには限界がある」と気づきながらも、採用目標は下がらないのでどうしたらいいのか……というジレンマを抱えている場合が多いです。経営層からのプレッシャーもあって、頭を悩ませているのではないでしょうか。
また、人事の方は内定承諾をとりたいものの、なかなか現場の面接を突破できない、または内定承諾につながらないというケースもよく聞きます。
土田 現場の方による面接は「見極め」がメインになってしまうことが多いんですよね。面接担当者は「いい人を取らなければ」という責任感から、判断が慎重になりがちです。アトラクト(自社の魅力付け)まで気が回らないので、候補者側の選考体験は上がらないというわけです。
伊藤 実はマッチしているすばらしい人が応募してくれても、候補者の方に「あなたはマッチしているよ」という実感を与えることなく面接が終わってしまって内定につながらない。そこでまた新しい母集団を探して……という負のサイクルに陥っているという課題があります。
少し具体的に考えてみると、仮に書類通過率25%、1次通過率25%、2次通過率50%とすると、内定1名に対して32件の応募と10回もの面接が必要になる計算です。このうち、人材要件以外の理由による不通過や辞退が1件でも減らせれば、採用効率は大きく変わります。母集団を集める努力と同じくらい、集めた候補者をいかに内定承諾につなげるかという部分に、まだ大きな伸びしろがあると感じています。
人事の採用担当者は「母集団を集めても決まらない」という焦りを抱えながら、忙しい現場に面接をお願いしているのではないでしょうか。
──こういった課題はなぜ起こっていると思われますか。
伊藤 前回の面接の内容を引き継がず、一から聞き直す「リセット型」面接になっていることが問題です。
もちろん申し送りはされているものの、次の面接担当者も忙しい中ですべて読むとは限りません。特に面接担当者の主観や感想ベースの内容では、曖昧でつかみきれないことも多く、次の面接担当者は「自分の目と言葉で確かめたい」となりがちです。
その結果、候補者に同じ質問を繰り返してしまい、候補者体験が低下する原因となっているのです。
土田 面接のやり方が体系化されていないので、現場の面接担当者はこれまでの経験に頼って、手探りで面接を行います。「本当にこの人でいいのか」という不安を解消し、自分を納得させるために、見極める質問を重ねてしまうのでしょう。
しかし、見極めだけに注力していては候補者体験は向上しません。面接担当者は入社後の上司や同僚であることが多いわけですが、候補者にとってみれば、常に見極められていると感じる人といっしょに働きたいと思えないですよね。
伊藤 あとは、選考スピードも重要な課題点です。選考を受けている間に他の企業から魅力的なオファーがあれば、辞退してそちらに行ってしまうケースが多い。候補者の入社意向を高める(アトラクトを行う)タイミングが遅れた結果、内定に至らなかった、という課題感を持っている人事の方は少なくないのではないでしょうか。
——課題は認識していながら、解決の打ち手が分からないという企業が多いのでしょうか。
伊藤 そうですね。面接は個室で行われるため、そもそもブラックボックスになりやすい性質があります。中身が見えないという前提によって、面接内容の改善は難しいと、諦めてしまっているケースが多いように感じます。
土田 現場の面接にはその職種の専門性が求められることもあり、人事が介入することが難しい。そのため、人事が貢献できるポイントである母集団形成が、最も分かりやすい解決策となり、採用の課題解決は「母集団を増やす」ことに偏りがちになっています。


