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石原直子氏「AIが人々の働き方を大きく変化させるからこそ、人材マネジメントと人事部の変革が欠かせない」
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石原 直子(いしはら なおこ)氏
株式会社エクサウィザーズ はたらくAI&DX研究所 所長
銀行、コンサルティング会社を経て2001年からリクルートワークス研究所。機関誌『Works』編集長、人事研究センター長を務めた後、2022年にエクサウィザーズに転じ、はたらくAI&DX研究所所長に就任。専門はタレントマネジメント、日本型雇用システムなど。著書に『女性が活躍する会社』(大久保幸夫氏との共著、日経文庫)がある。近年は、デジタル変革に必要なリスキリング、AI時代の人材マネジメントの研究などに注力する。
AIエージェント元年といわれたとおり、2025年はビジネスの現場におけるAI利用が一気に加速した年だった。もちろん現在のところはAIにはさまざまな限界があり、業務のすべてをAIに任せきるにはリスクも不安もつきまとう。だが、AIの開発は超高速で進んでおり、2026年以降もますます使い勝手がよく、使いがいのあるAIが生まれるだろう。
AIが人々の働き方を大きく変化させるからこそ、人材マネジメントと人事部の変革が欠かせない。2026年は、まずは現場の管理職がAI時代の人材マネジメントはどうあるべきかの試行錯誤に突入するだろう。
自分の部下が、AIを活用して、自分の若かりしときとは異なる形で業務を進めるようになれば、管理職が「かつての名プレイヤー」として彼らにを教え導くことは難しくなる。ここで、部下の仕事の進め方を尊重しようとせず、「そんなやり方では仕事の本質がつかめない」などと嘆くだけの上司は、ゆくゆく淘汰されていくことになるからくれぐれも注意が必要だ。
管理職の役割として、仕事を教えることや、進捗管理をはじめとするタスクマネジメントの側面は減少し、部下がAIとともに自律的に仕事を進めるのを支援し、彼らが「ごきげん」に働く環境を作る、ピープルマネジメントの側面が強く求められるようになる。
現場が変わることで、人事の役割も変化する。管理職の役割が変われば、管理職の登用基準も変わる。AIを駆使して「ソロ」で大きな仕事をできるプレイヤーが増えれば、彼らの処遇や権限を考える必要がある。自律的に働ける人々を組織に引き留めるための組織文化をつくる仕掛けも必要だ。人事全体、組織全体をデザインし直す必要があるだろう。
今井のり氏「2026年はスキル型組織と人材マネジメントが実質的に始動する年になる」
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今井 のり(いまい のり)氏
株式会社レゾナック・ホールディングス 取締役 常務執行役員 最高人事責任者(CHRO)
1995年旧日立化成に入社。経営企画、オープンイノベーション推進、営業・マーケティング(米国駐在)、複数事業の企画・事業統括を経て、旧日立化成で2019年執行役に就任。昭和電工との統合では、旧日立化成側の責任者としてリード。ビジネスパートナーとしてのHR改革などを推進しながら、パーパス・バリューを基に新しい企業文化の醸成、事業戦略にマッチした人材育成に注力。
2025年の人事領域は、「黒字リストラ」「人手不足」という背反する施策が展開された1年であったものの、人材不足が常態化し、事業環境の変化が加速する中で、単純な人員最適化やコスト削減を目的とした施策は、もはや中長期の競争力に結び付かないことが明らかになっている。企業と個人の関係は一方的に「選ぶ・選ばれる」ものではなく、相互に価値を見極め合う対等な関係へと移行しつつあり、CHROにはこの前提に立った人材マネジメントが求められている。
2026年は、ジョブ型をさらに前に進めたスキル型組織と人材マネジメントが実質的に始動する年となるだろう。重要なことは、起点となるべきは経営戦略・事業戦略であり、将来の競争領域において必要となる人材ポートフォリオを明確に描き、その要件と個人のスキル・経験をいかに効果的にマッチングさせるかである。そのためにも、再現性が重要な従来のヒエラルキー型の組織と、変革・イノベーションを推進するプロジェクト型の組織を区別し、それぞれに応じた人材マネジメントのアプローチを取ることも重要と考える。
さらに、弊社のような製造業がグローバル市場で戦うためには、優秀な個人の集合では不十分であり、プロフェッショナル同士が相互に補完し合い、学習と成果を循環させるチームとして機能する環境づくりが不可欠となる。配置、評価、育成、報酬を一体で設計し、「この組織で成長し続けたい」と個人が選び続ける内発的な理由を提供し続けられるかが鍵である。2026年以降、ピープルマネジメントやソフトスキル、企業文化の質そのものが、企業価値を左右する中核テーマとなるだろう。
永島寛之氏「AIが業務を担い、人が関係性と経験をデザインする未来の土台づくりが本格的に始まる」
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永島 寛之(ながしま ひろゆき)氏
トイトイ合同会社 代表
元ニトリホールディングス理事・組織開発室長。人的資本経営、スキル起点の人材戦略、AI×人事の実装を専門領域とし、企業の組織変革・人材育成を支援。CHRO勉強会「ARCH」主宰。国内外のHRカンファレンスでの発信や講演多数。
2025年のHR Tech Conference(米国ラスベガスで開催される世界最大級のHRイベント)に訪問して感じたのは、AIエージェントが人事の“作業を支える道具”ではなく、“組織を動かす新しいOS”として機能し始めている姿であった。職務ではなくスキルを単位に人材をとらえ、記録中心の人事から洞察を生み出す人事へ移行し、1人ひとりに最適な成長機会を提示する仕組みがすでに実装段階にある。これは日本企業が今後数年で経験する変化を先取りしている。
そのうえで、2026年の日本の人事が体験するのは、“すべてが起きる年”ではなく、これらの構造変化に向けた第1〜第2フェーズの準備を本格的に始める年である。
第1に、「AIエージェント元年」として、採用・育成・評価・配置の前提を見直す動きが加速する。日常業務の多くが自動化され始め、人事は“作業”から解放される一方で、役割定義、スキル構造、キャリアの道筋といった“設計”の曖昧さが露呈する。2026年は、AI活用に耐えうる設計思想を固める準備が不可欠になる。
第2に、タレントインテリジェンスへの移行が本格化し、「誰を、どんな経験に、いつ送り出すか」を可視化するためのデータ整備が始まる。固定的な職務記述書は効力を失い、動的なアサインメントと活動ログを中心に据える“新しい人事データ基盤”の整備が求められる。2026年はその基礎を築くフェーズと位置付けられる。
第3に、管理職の役割再定義に向けた動きが始まる。AIが情報整理と意思決定前提をつくることで、管理職の仕事は「部下の活躍を設計し、関係性を束ねること」へと集中する。そのためのスキル習得やマネジメントモデルの刷新は、2026年に着手されるべき領域となる。
2026年に求められる人事の役割は、制度の刷新ではなく、“組織がどう動くべきか”という未来像に基づいて、必要な準備を着実に進めることである。AIが業務を担い、人が関係性と経験をデザインする未来の土台づくりが、この年に本格的に始まる。

