前回は、従業員1人ひとりのコンディションを把握するための観点として、「心理(主観)」「行動(客観)」「対話(文脈)」の3つを整理しました。この中で最も早く変化が表れやすいのが「心理」、つまり従業員本人の感じ方・主観です。仕事へのやりがいや負荷感、周囲との信頼関係といった主観的な感覚は、勤怠や行動といったデータに変化が現れる前に揺れ始めることが少なくありません。コンディションの変化を早期に捉えるためには、この“心理の変化”に目を向けることが重要になります。そこで今回は、従業員の心理を定期的に観測する手段として用いられる「パルスサーベイ」を取り上げます。設問設計や実施頻度、そして結果をどのように分析し、人事やマネジメントのアクションにつなげていけばよいのか。サーベイを形骸化させず、実務で活かすためのポイントを整理していきます。
なぜ「主観」が大事なのか
人事データ分析というと、勤怠や評価、残業時間といった「客観的なデータ」が重宝されがちです。一方で、従業員の主観はあいまいで、その時々の気分によっても変化するため、分析の優先順位が下がってしまうケースも見受けられます。
しかし実際の組織では、パフォーマンス低下やトラブルの多くが「ひと」起因で生じており、その変化は本人の“感じ方”から現れることが少なくありません。「最近しんどい」「やりがいを感じない」「周囲と噛み合っていない」といった感情の揺れは、残業時間の増加や、休職・離職といった結果が表れるよりも前に起きています。
それにもかかわらず、人事やマネジメントがその兆候に気づくのは、実際の行動の変化がデータに表れてから、あるいは本人からの相談があってから、というケースが多いのが実情です。つまり「数字として可視化された後」に初めて対処している状態です。これでは早期対応とはいえず、結果として手遅れになるケースも生じます。
ここで重要なのは、起こっている事象について「事実がどうか」ではなく、「本人がどう感じているか」に目を向けることです。たとえ業務量が客観的には適正であっても、本人が過度な負荷を感じていれば、その人にとっては“負荷が高い状態”です。主観にはその時々の気分や体調による揺らぎが含まれますが、無視できる情報ではありません。むしろ、こうした「主観の揺れ」こそが、最も早く現れるコンディション変化の兆候となります。
こうした行動にはまだ現れていない変化を扱えるのが「パルスサーベイ」です。パルスサーベイは正確無比な分析を行うことが目的ではありません。「いつもと違う」という変化に気づくための機能として位置付けることが重要です。従業員の声を丁寧に拾うというよりも、組織としてパフォーマンス阻害の“兆しを見逃さない仕組み”をつくる——そのための手段として、パルスサーベイを捉える必要があります。
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友部 博教(トモベ ヒロノリ)
東京大学大学院で博士号を取得後、東大、名古屋大、産総研などでコンピューターサイエンスの学術研究に取り組む。2011年、DeNAに入社し、アプリゲーム分析およびマーケティング分析などの部署を統括、その後ピープルアナリティクス施策を担当。メルカリの人事を経て、ビズリーチに入社。現在はビズリーチ WorkTech研究所 ...
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