多くの企業が、エンゲージメントサーベイを通じて従業員の声を聴こうとしています。しかし、声を集めて集計し、経営向けのレポートにまとめても、その後の判断やアクションが社員に伝わらないまま、次のサーベイを迎えてしまう——そんな状況が繰り返されています。こうした中で語られるのが、従業員側の「サーベイ疲れ」です。多くの場合、回答すること自体に疲れているのではありません。答えたのに反応がなく、何も変わらない。その経験を繰り返すことに疲れているのです。いわば「無視疲れ」です。前回は「フィードバック経営」3本の柱の1つ、フィードバック文化の醸成を取り上げました。今回紹介するのは、「VoE(Voice of Employee=従業員の声)サイクルの確立」です。サーベイが空回りする理由や、サーベイ疲れの真因を掘り下げたうえで、社員の声を組織の変化につなげるための「聴く・読み解く・動く・返す」という4つの歯車を解説します。
「またサーベイか」の裏にあるもの
「またサーベイか」
「答えても何も変わらない」
こうした声は、多くの企業で聞かれます。しかしほとんどの場合、この声の原因を掘り下げないまま、サーベイを年中行事のように回し続けています。回答率が下がっても「忙しいんだろう」で片づけてしまう。
拙著『フィードバック経営』の執筆にあたって、国内の正社員2060名を対象に実施した独自調査では、「課題を伝えれば何かが変わるという信頼感がある」という質問に対し、59.1%の社員が「そう思わない」と答えています。6割近い社員が、声を出しても変わらないと感じているのです。
この数字が示しているのは、回答そのものの負担ではありません。「答えたのに、何も変わらなかった」という経験の蓄積が、社員を黙らせてしまうということです。
集めておいて放置するのは、何もしないより有害です。「あなたの意見を聞かせてください」と言っておきながら無視する。それは「あなたの意見には価値がない」というメッセージと同じだからです。ある大手企業の若手社員は、こう話していました。「フリーコメントを書いても誰も見ていないし何の反応もない。だから誰も書かなくなった。そうこうしているうちにフリーコメントという枠自体がなくなってしまった」。本人は笑いながら話していましたが、これは沈黙が制度になった瞬間です。
一方で、声が届いている組織には、はっきりした違いがあります。同じ独自調査で、「経営陣は現場の声に耳を傾けている」「声が経営の判断に反映されている」と社員が感じている組織とそうでない組織を比べると、「この会社で働き続けたい」という定着意向は2.7倍、心理的安全性は2.4倍、事業の成長実感は2.2倍、自ら考え行動する主体性は2.3倍の差がつきました。
声が届いている組織では、人事指標だけでなく、社員が感じる事業成長の手応えにも大きな差が見られました。
では、なぜ多くの組織で声は届かないのでしょうか。
沈黙の4層構造——声はどこで止められるのか
本連載第1回で、「社員の声のうち経営に届くのはわずか4%」というデータを紹介しました。残りの96%はどこで消えているのか。私はこれを「沈黙の4層構造」と呼んでいます。組織のなかに、声が止まる場所は4ヵ所あります。
第1層は、現場です。職場で問題を感じたり改善案を思いついたりしても、それを上司や経営者に伝える社員は、わずか15%にすぎないという研究があります。残りの85%は、問題に気づいても黙ったまま自分の仕事に戻っていきます。背景にあるのは、本連載第2回で見た「恐れ」と「諦め」の壁です。
第2層は、中間層です。部下の「若手が参っています」という声が、部長に伝える段になると「少し負荷の偏りがあるかもしれません」に変わる。上司に余計な心配をかけまいという配慮が、声の角を無意識に削っていきます。悪意のないこの「善意のフィルター」が、階層を上がるたびに重なります。
第3層は、経営層です。フィルターをくぐり抜けた声が届いても、経営者自身のバイアスが受け止めを歪めます。ガートナーの調査では、「自社には柔軟な文化がある」と答えた経営層は75%だったのに対し、社員は57%。18ポイントの開きがありました。フィルターを通った情報だけに触れ続けると、それが現場の全体像だと思い込んでしまいます。
第4層は、制度です。声を集めるためにつくったサーベイや提案制度そのものが、集めて放置されることで沈黙をさらに深めます。
4つの層は互いに強め合いますが、逆もまた成り立ちます。経営者が耳の痛い報告に「教えてくれてありがとう」と返せば、中間層は悪い知らせを止めずに上げるようになる。声が通れば、現場は「言っても大丈夫だ」と感じ始める。
どこか1つの層に風穴が空けば、他の層にも空気が入ります。ただし、声を一時的に通すだけでは、組織の変化は続きません。
VoE(Voice of Employee=従業員の声)サイクルの目的は、社員の声を集めることではありません。現場の声を経営に届け、経営の判断とその背景を現場に返す、双方向の通り道をつくることです。そのためには、声を集め、読み解き、意思決定し、結果を返す一連の流れを仕組みにする必要があります。それが、次に紹介する「4つの歯車」です。
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- 「サーベイ疲れ」の正体は「無視疲れ」 社員の声を変化につなげる「4つの歯車」とは
- 1on1が空回りする理由——「投げ手」だけでは醸成されない、フィードバック文化のつくり方
- 社員が口を閉ざす本当の理由──「沈黙」を生む3つの壁と、それを越える3本の柱
- この記事の著者
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三村 真宗(ミムラ マサムネ)
株式会社U-ZERO 代表取締役 CEO 兼 CPO
慶應義塾大学卒業後、創業メンバーとしてSAPジャパン株式会社に入社。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベタープレイス・ジャパン株式会社などを経て、2011年に株式会社コンカーに参画。代表取締役社長として、社員一人ひとりの声を経営に活かす組織づくりを徹...
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