スコアの裏の「なぜ」は、匿名サーベイだけでは掘り切れない
ここまで読んで、「エンゲージメントサーベイでは足りないのか」と思われたかもしれません。エンゲージメントサーベイは、組織の異変に早く気づくための頼れる観測点です。ただし、見えるのは水面上に出ている氷山の一角にすぎません。「30代社員のスコアが低い」という事実は分かっても、仕事を任せてもらえないのか、処遇に納得していないのか、キャリアが見えないのかまでは分かりません。水面下にある「なぜ」を読み解くには、社員の生の声が必要です。しかし匿名のサーベイでは、気になる声があっても書いた本人に聴き返せません。
匿名制は、社員が安心して声を出すための重要な仕組みです。一方で、個別の回答に対して追加で問い返せないという限界もあります。
そこでコンカーで毎年運用していたのが「コンストラクティブフィードバック」です。スコアや選択式の設問を使わず、記述式の問いだけを全社員に投げかけ、経営者自身がオーナーとなって声を読み、判断し、返す仕組みです。目安箱が「声を待つ仕組み」だとすれば、こちらは経営が自ら問いを立てて声を取りに行く仕組みです。
カギは問いかけの設計にあります。実は初回、私はこの準備を怠り、痛い目に遭いました。「何か課題があれば言ってほしい」と投げかけたところ、返ってきたのは「住宅手当がほしい」「リフレッシュ休暇を増やしてほしい」といった福利厚生の要望ばかりだったのです。冷静に考えれば、目線をそろえずに「何でも言ってください」と言えば、そうなるのは当たり前でした。
翌年から「経営資源には限りがあることを前提に、あなたが経営者の立場だったらどう改善しますか」と目線をそろえて問いかけたところ、福利厚生に関する個別の要望は大きく減り、事業や組織運営への提言が集まるようになりました。問いかけが声の質を決めるのです。
なお、コンカーではこの調査の回答率が毎回100%でした。その背景には、全員参加の原則に加え、実施目的を経営から伝え、各部門のリーダーも参加を促す運用がありました。全員から聴くからこそ、返す責任も重くなります。
平均点の向こう側にある退職の予兆「ナイキカーブ」
組織全体の声とあわせて見てほしいのが、1人ひとりの変化です。
パルスサーベイを導入する企業は増えましたが、結果を部門の平均点で見て終わっているケースも少なくありません。しかし、平均が安定していても、そのなかで静かにスコアが下がっている社員がいるかもしれません。パルスとは本来、脈拍のことです。
コンカーでは、四半期ごとに8つの設問からなる短いサーベイを実施し、部門の平均だけでなく、1人ひとりのスコアの推移を確認していました。変化の兆しが見られた場合には、人事が早めにインタビューを行っていました。
追い続けるうちに、繰り返し現れるパターンが見えてきました。スコアが何回かにわたってじわじわ下がった後、突然持ち上がる社員がいる。一見すると回復に見えますが、別の意味を持つ場合があります。その後の退職事例を振り返ると、転職を決意して会社への葛藤が薄れたことで、スコアが一時的に上がっていたケースがあることが分かりました。
推移がスポーツ用品大手であるナイキのロゴマークに似た軌跡を描くことから、私たちはこれを「ナイキカーブ」と呼んでいました。以降は、スコアが数回続けて下がっている社員には、絶対値がそれほど低くなくても、カウンセリング担当の人事社員が早めにインタビューするようになりました。ナイキカーブは、起きてから反省する教訓ではなく、起きる前に手を打つシグナルに変わりました。
もちろん、この軌跡を描いた社員が必ず退職するわけではありません。重要なのは、スコアの絶対値だけでなく変化の兆しを見て、早めに対話の機会をつくることです。
フォローで注意したいのは、気になる変化が見られた社員へのフォローを、直属のマネージャーだけに委ねないことです。ストレスの原因に直属のマネージャーが関係している場合、本人が率直に話せない可能性があるからです。
とはいえ、変化の兆しを見つけ、本人と対話し、必要な対応につなげる役割を、人事だけに背負わせてはいけません。
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三村 真宗(ミムラ マサムネ)
株式会社U-ZERO 代表取締役 CEO 兼 CPO
慶應義塾大学卒業後、創業メンバーとしてSAPジャパン株式会社に入社。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベタープレイス・ジャパン株式会社などを経て、2011年に株式会社コンカーに参画。代表取締役社長として、社員一人ひとりの声を経営に活かす組織づくりを徹...
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