AIを業務の「前提」に置く動きは、もう始まっている
最初に、言葉の整理から始めます。
本連載では、既存の事業や組織に“AIをどう取り入れるか”を考える取り組みを「AIトランスフォーメーション(AIX)」、AIが働くことを前提に事業や組織の設計そのものをゼロベースで見直す考え方を「AIネイティブ」と区別します。事業や組織の変革において、AIツールを足すのか、AIを前提に構築し直すのか、の違いです。
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「AIネイティブのような組織が主流になるのはもっと先の話だろう」と思われるかもしれません。しかし徹底度に幅はあれ、AIを組織運営の前提に置く動きはすでに現れています。
たとえば、ShopifyのCEO トビ・リュトケ氏は、2025年4月に公開された全社員向けメモで、「増員を求めるチームは、まず、なぜその仕事がAIでできないのかを示さなければならない」と宣言しました。AI活用を全社員の職務の前提とし、業績評価や同僚評価の質問票にAI活用に関する設問を加えるとしています[1]。社員を増員する前に、「AIでは代替できない仕事であるかどうか」を問うのです。
注
[1]: CNBC「Shopify CEO says staffers need to prove jobs can't be done by AI before asking for more headcount」
また、AIアプリ開発サービスのBase44は、創業者が1人で立ち上げ、外部資金を調達しないまま成長し、創業から約半年後、従業員6人の段階でWixに約8000万ドル(約116億円)で買収されたと報じられています[2]。AIを中核とするサービスを、創業者が1人で立ち上げ、外部資金を調達せず、ごく少人数のまま急成長させた例です。
さらに、AIネイティブの動きは人事の足元でも起きています。IBMの公式ケーススタディによれば、AIを活用した社内人事サービス「AskHR」は、従業員からの一般的な質問の94%を人への引き継ぎなしで完結させ、問い合わせチケットは2016年比で75%減少したとされています[3]。
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これら共通するのは、従来は人が担うと考えられていた仕事や判断の一部を、AI前提で組み直していることです。AIネイティブ組織は、もはや未来のことではありません。
なぜ「AIツールを配るだけ」では失敗するのか
一方で、多くの企業の実感は、「AIを使える環境を整えたのに変わらない」でしょう。本稿でいう「AI導入の失敗」とは、この状態──AIを導入したが、組織的な成果につながっていない状態を指します。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のProject NANDAにより作成された2025年の調査レポートによれば、生成AIを公式に契約している企業は約40%にとどまる一方、90%を超える企業では従業員が個人契約のAIツールを日常的に使っていました[4]。
そして、統合型の生成AIパイロットのうち、持続的な生産性向上または損益への測定可能な効果が確認されたものはわずか5%と推計されています。主にインタビューに基づく方向的な数値ですが、企業でのAI活用の難しさを示す示唆的な結果です。
注
[4]: MIT NANDA「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」
個人ではAIを使えているのに、組織としては成果に至らない。この非対称を、AIの性能だけで説明することはできません。レポートでは、論点の1つとして「業務への統合」が挙げられており、筆者の経験からも、この差を組織の土台——「組織OS」の問題として捉えています。
組織OSとは、意思決定、権限、情報の流れを含む、組織運営の土台のことです。AIを前提とした組織OSへと変わらない限り、AIネイティブ組織となり、組織として成果を出すことは難しいと考えています。
では、何がそろえば組織OSは書き換わるのでしょうか。

