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AIネイティブ組織へ——人事が主役の「組織OS」アップデート | 第2回

トップの熱狂をどう設計するか——経営者をAI導入の「当事者」に変える人事の動き方

森 謙吾[著]

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 前回は、「AIツールを配ったのに組織が変わらない」というAI導入の停滞の原因が、組織OS——意思決定、権限、情報の流れを含む組織運営の土台——にあること、そして組織OSがAI前提に書き換わるには「トップの熱狂」「ハーネス」「AIを働かせきること」の3要素が必要であることを述べました。本稿ではその1つ目、「トップの熱狂」を取り上げます。筆者が支援する現場ではよく「社長が本気にならない」と人事の嘆きが聞こえてきます。たしかに、熱狂そのものを外からつくることはできません。しかし、熱狂が生まれやすい条件は設計できます。今回お伝えするのは、経営トップが「当事者」に変わる、巻き込みの順番と言葉のお話です。

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前回(第1回)の記事

トップが熱狂している組織ほど、動きが速い

 最初に、AIネイティブ組織づくりを支援し、多くの組織を見てきた筆者が確信していることをお伝えします。それは、「トップがAIに熱狂している組織ほど、変化の動きが速い」ということです。

 これは統計ではなく筆者の実感ですが、例外をほとんど見たことがありません。逆に、トップが「AIねえ、どうなんだろうね」と評論家の目で眺めている組織は、どれだけ現場が優秀でも遅いです。トップの熱狂と組織のスピードは、直結しています。

 ここでいう熱狂は、上品なものでなくて構いません。世間では、AIの新機能が出るたびに大げさに騒ぐ人を「驚き屋」と揶揄することがあります。しかし筆者は、経営トップに限っては驚き屋でいいと考えています。顎が外れるほど感動して、自分の手で使い倒してみる。その体験の量が、後述するとおり、投資判断と権限設計のスピードに直結するからです。

トップの熱狂と組織のスピードは直結する
トップの熱狂と組織のスピードは直結する
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 なぜトップが熱狂していると組織変革のスピードが速いのか。理屈はシンプルで、これは構造の問題です。組織OSの書き換えとは、「何を誰がどう決めるか」「どこまでをAIに委ねるか」という意思決定と権限の変更を含みます。情報の流れや業務プロセスの一部は部門でも変えられますが、全社の意思決定・権限・評価に踏み込む変更には、経営の意思決定が不可欠です。部門主導のAI推進が「便利ツールの導入」止まりになりやすいのは、担当者の力量の問題ではなく、部門には組織OS全体を書き換える権限がないからです。だからこそ前回の3要素は、ハーネスでも「AIを働かせきること」でもなく、トップの熱狂から始まります。

 調査もこの見方と整合します。米McKinseyが2025年3月に発表した調査レポート[1]では、生成AIが利益(EBIT)にもたらすインパクトとの関連が示された要素の1つが「CEO自身がAIガバナンスを管掌していること」で、大企業に限ればこの関連が最も強い要素でした。ところが同じ調査で、AIを利用している組織の回答者のうち、CEOがAIガバナンスを管掌していると答えたのは28%にとどまります。

日本のトップは、もう熱狂を宣言している

 「熱狂なんて属人的な話を」と思われるかもしれません。しかし、日本を代表する経営者たちが、まさにこの「トップの熱狂」を経営方針として明言し始めています。

 DeNAの南場智子会長は、2025年2月の「DeNA×AI Day」で「DeNAはAIにオールインします」と宣言しました。[2]約3000人で運営する現業を半分の人員で成長させ、残りの半分を新規事業に振り向け、「10人1組でユニコーンを量産する」構想まで示しています。筆者がこの宣言で最も重要だと考えているのは、数字ではなく次の発言です。

 「経営者自身が興奮しているかどうかが非常に重要なポイント」「自らがツールを使い倒して、この可能性に感激して、興奮して、その興奮を改革のエネルギーに変えて全社を引っ張っていく」[3]。筆者が「トップの熱狂」と呼んでいるものを、南場会長は「経営者自身の興奮」と呼んでいます。そして宣言から約1年後、南場会長は「一部のソフトウェア開発プロジェクトでは約20倍相当の生産性向上に達したケースもある」と総括しています[4]

[2]: フルスイング by DeNA「DeNA南場智子が語る『AI時代の会社経営と成長戦略』全文書き起こし」 https://fullswing.dena.com/archives/100153/

[3]: ログミーBiz「『経営者がAIに興奮しているかがポイント』 DeNA南場会長が語る、10人でユニコーンを作る時代とは

[4]: 日本ネット経済新聞「【DeNA 南場智子会長が『AIオールインからの1年』語る】生産性20倍の現場も」 https://netkeizai.com/articles/detail/17737

 メルカリも同じ構図です。山田進太郎CEOが2025年5月に「AIネイティブカンパニーへの転換」を宣言し、トップ自ら旗を振りました。宣言の翌年度にあたる2026年8月の決算では、対象となるグループ従業員のAIツール利用率が100%に達し、エンジニア1人当たりの開発量がAI活用前と比べて7.6倍になったという数字とともに、過去最高益が報告されています[5]。LayerXに至っては、2025年4月に会社の行動指針そのものを「Bet AI」に書き換えました[6]。筆者はこれを、トップの熱狂を個人の姿勢にとどめず、全員の行動指針にまで昇格させた例だと捉えています。

日本のトップの熱狂宣言(DeNA・メルカリ・LayerX)
日本のトップの熱狂宣言(DeNA・メルカリ・LayerX)
[画像クリックで拡大表示]

 海外も同様で、前回紹介したShopifyのCEOメモ——「増員を求めるチームは、まず、なぜその仕事がAIでできないのかを示さなければならない」[7]——も、自らAIを使い倒すトップの熱狂が、増員判断と評価という制度の言葉に翻訳されたものだと筆者は捉えています。

 ここまでを人事の視点で言い換えると、こうなります。「トップの熱狂は、もはや『社長の性格の問題』ではなく、日本の先頭集団では『経営方針そのもの』になっている。ならば、自社のトップがまだ評論家の席にいるとき、熱狂するまで座して待つのか、熱狂が生まれる入口を設計するのか」——これが人事の仕事です。

次のページ
「やらされ」を「当事者」に変える——巻き込みの順番と言葉

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AIネイティブ組織へ——人事が主役の「組織OS」アップデート連載記事一覧
この記事の著者

森 謙吾(モリ ケンゴ)

AINative株式会社 CEO
元PwCコンサルティング 人事コンサルタント / 人事評価SaaS「ハイマネージャー」創業者
慶應義塾大学法学部卒。PwCで4年、人事制度コンサルティングに従事。その後、人事評価SaaS「ハイマネージャー」を創業し、創業から約5年の経緯を経て、2023年にキュービック株式会社へ...

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