巻き込みが前に進むチームと、止まるチームの分岐点
ここで筆者自身の話をします。前回のコラムで紹介した「議事録中心経営」——録音・保存の対象と定めた会議の議事録をデータベースに蓄積し、AIが次回会議の論点を先回りで調査し、アクション案を用意する仕組み——は、外部ベンダーでもIT担当者でもなく、経営者である筆者が自分の手でAIと対話しながらつくりました。AIの利用料も、月20万円前後を自分の判断で払い続けています。ツールのコストとしては高いと感じる方もいるでしょうが、筆者にとっては「もう1人の自分たち」を雇う人件費であり、安すぎる投資です。
こうした感覚は、自分で使い倒して初めて腹落ちしました。つくる側に回って初めて、「AIに何を任せてよいか」「どこに人の判断を残すべきか」が判断できるようになり、それは投資判断と権限の線引きのスピードに直結しています。支援先の経営者にも「まず自分で使い倒すこと」を必ずお願いするのは、この実感があるからです。
この経験と支援の現場から、筆者が見てきた経営の巻き込みが止まるチームと前に進むチームの分岐点は次の3つに集約できます。
- 止まりやすいチームは、トップが「承認者」のまま。前に進むチームは、トップが「最初のユーザー」になっている
- 止まりやすいチームは、人事が「事務局」として進捗を集める。前に進むチームは、人事が「設計者」として議題を経営に渡している
- 止まりやすいチームは、効果を「コスト削減」だけで語る。前に進むチームは、顧客・人材・意思決定の変化で語っている
最後に、この変化が組織に広がる順番について、筆者が支援先で必ず伝えている型を書いておきます。「トップの熱狂→右腕の発火→仕組み化」です。
トップが熱狂し、次にその熱狂に最初に感染して社内に広める「右腕」が発火し、最後に仕組みに落ちて定着する。AIネイティブ化はこの順でしか進まない、というのが筆者の見方です。そして筆者は、本稿で述べてきた体験の設計・経営の言葉への翻訳・議題の提示を担える人事こそ、この「右腕」の最有力候補だと考えています。
トップの熱狂そのものを、人事がつくることはできません。しかし、最初に発火する右腕には、経営のすぐ隣で人と組織を扱ってきた人事こそがなれます。なお、本人が号令を出す場では、試行の対象業務・期限・責任者もあわせて決めてもらうと、熱狂が一過性で終わりません。熱狂を定着につなぐのが仕組み化であり、その土台となるのが、次回扱う第2要素「ハーネス」です。
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まとめ:明日からの一手
本稿のまとめと明日からの一手は次のとおりです。
まとめ
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- トップがAIに熱狂している組織ほど、変化の動きが速い
- これは筆者の現場での確信であり、DeNA南場会長も「経営者自身が興奮しているかどうかが非常に重要」と語っています。全社の意思決定・権限に踏み込む組織OSの書き換えには経営の意思決定が不可欠であり、だからこそ「トップの熱狂」から始まります。
- DeNA(AIオールイン)、メルカリ(宣言から約1年でAIツール利用率100%、エンジニア1人当たり開発量7.6倍)、LayerX(行動指針を「Bet AI」に変更)と、日本の先頭集団ではトップの熱狂がすでに「経営方針そのもの」になっている
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- 巻き込みは「切実な業務課題の特定→30分の体験→経営の言葉への翻訳→ 本人の号令」の順番で設計する。
- グッドパッチでも、トップ自身の体験と感動が号令に先行していた。経営には「顧客・人材・意思決定」の3つの経営議題を渡す。変化は「トップの熱狂→右腕の発火→仕組み化」の順で組織に広がり、筆者は人事をその「右腕」の最有力候補と見ている。
明日からの一手
経営トップの「切実な業務課題」を1つ特定することから始めてください。本人に直接聞けるなら「いま一番時間を取られている、なくしたい仕事は何ですか」と聞く。そして、その業務の実物を使った30分のAI体験を設計する(体験は、社内で利用が承認されたAI環境で行ってください)。説明資料をつくり込む前に、まず体験の場を1つつくる。顎が外れるほどの感動を、トップに1回味わってもらう。それが熱狂の入口になります。
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次回は、当事者になった経営とともに取り組む本丸——「ハーネス」を扱います。会社の判断基準(考え方、ルール、やっていいこと/悪いこと、品質基準)を言語化し、議事録や記録といったデータを、アクセス権限を管理したうえでAIの読める場所に置く。AIが力を発揮するための「枠組み」を設計する方法論です。
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- この記事の著者
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森 謙吾(モリ ケンゴ)
AINative株式会社 CEO
元PwCコンサルティング 人事コンサルタント / 人事評価SaaS「ハイマネージャー」創業者
慶應義塾大学法学部卒。PwCで4年、人事制度コンサルティングに従事。その後、人事評価SaaS「ハイマネージャー」を創業し、創業から約5年の経緯を経て、2023年にキュービック株式会社へ...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

