多くの企業が、ビジネスとデジタルの双方を理解し、事業変革を牽引するDX人材の育成に課題を抱えている。三井不動産でも、DX本部の「何をやりたい?」と事業部門の「何ができるの?」が行き交う“DX禅問答”が起きていたという。このすれ違いを解消し、ビジネスとデジタルの双方を理解して事業変革を担う人材を育てるために始めたのが、社員が約1年間DX本部へ異動し、出身部門の実課題に取り組む「DXトレーニー制度」だ。制度を運営するDX本部の湯坐氏と日置氏に、育成の仕組みや成果、運営上の課題を聞いた。
DX本部「何をやりたい?」、事業部門「何ができる?」——議論を止める“DX禅問答”
——貴社は長年IT化・DX化に取り組んでおり、現在はDX方針「DX VISION 2030」を掲げられています。今回お話を伺う「DXトレーニー制度」の背景として、貴社がDXを推進する中でどのような課題があったのでしょうか。
湯坐豪人氏(以下、湯坐) 三井不動産では、DXをグループ長期経営方針「& INNOVATION 2030」を支える重要なインフラの1つに位置付け、リアルの場とデジタルを掛け合わせたビジネス変革を進めています。
一方、現場では、事業部門から「デジタルで何ができるのか」と聞かれ、DX本部からは「現場は何を実現したいのか」と問い返す“DX禅問答”が起きていました。双方の知見や視点が異なるため、議論が前に進みにくい。これが大きな課題でした。
湯坐 豪人(ゆざ たけと)氏
三井不動産株式会社 DX本部 DX四部 DXグループ
2019年に三井不動産へ中途入社。入社後はビルディング本部、ベンチャー共創事業部、日本橋街づくり推進部などと連携し、DXの観点からサービスの企画・開発やIoT導入支援業務に従事。2024年よりDXトレーニー制度の立ち上げに携わり、現在は制度の企画・運営を担当。
——なぜ、そのような“DX禅問答”が起きるのでしょうか。
日置悠介氏(以下、日置) 事業部門にはデジタルの知見が十分ではなく、デジタル部門には事業に関する知見が十分ではない。そうした双方の知識のギャップは、以前からあったと思います。
ただ、かつては不動産とITで仕事の進め方が意外と似ていました。不動産は、土地を仕入れ、設計し、建物を建て、竣工検査をして引き渡す。ITも、要件を定義し、設計、開発を経て運用する。どちらも段階を踏んで進めるため、仕事の進め方にはそれほど大きな隔たりがなかったのだと思います。
しかし、現在のDXプロジェクトでは、最初からすべてを決めて完成させるのではなく、最小限のものをつくって検証し、価値があれば徐々に大きくしていくアジャイルな進め方が求められることが多くなりました。そのため、知識ギャップだけではなく、仕事の進め方や優先順位の付け方、価値観の違いが大きくなったことも、すれ違いの一因だと考えています。
——貴社では、2022年に全社員対象DX研修「DxU(ディー・バイ・ユー)」を行うなど、事業部門のDXスキルの向上も進んでいた印象です。それでも、DX部門と事業部門のすれ違いは起きてしまうのですね。
湯坐 同じ会社の中でも、部署や業務によってデジタルとの距離には差があったという印象です。データを積極的に活用して顧客分析を行う部署がある一方、日常業務においてBIツールやExcelといったデジタルツールに触れる機会が比較的少ない部署もありました。
日置 AIやデータ活用という言葉を聞いて「やらなければ」と感じていても、「何から始めればよいのか」「何を使えばよいのか」がわからず、現場からはまだ距離がある状態だったのだと思います。総合職の社員には、デジタルを武器にしなくても仕事を進められる、個の力が強い人が多いという印象もありました。
——そこで、貴社のビジネスとデジタル双方を理解した「DXビジネス人材」の育成に取り組まれます。DXビジネス人材には、どのような力が必要なのでしょうか。
湯坐 一般的なデジタルスキルだけでなく、当社の業務課題や顧客ニーズを起点に、「デジタルでどのような価値を生み出せるか」を考える力が必要です。そのためには、顧客や現場を理解し、小さく仮説検証を重ねていく力も欠かせません。
技術の専門家であるエキスパート職と共通言語を持ち、協働しながら企画や構想を前に進めることが重要だと考えています。
DX本部へ1年間異動 講義を「教養」で終わらせず、実課題の解決までやりきる
——あらためて、DXトレーニー制度の概要を教えていただけますか。
湯坐 三井不動産グループの社員を対象とした約1年間のプログラムです。参加者はDX本部へ専任で異動し、前半の講義と演習で、デジタルに関する知識やDXプロジェクト推進の基本を学びます。後半は、出身部門が抱える課題の解決につながるデジタル施策を考え、PoCまで進めます。修了後は、事業変革の担い手として活躍してもらうことが目的です。
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2024年10月に始まった1期には、三井不動産から4名、グループ会社から1名の計5名が参加しました。ある程度現場を理解し、すでに課題意識を持っている人が中心です。チームリーダーを務めるなど、各部門の業務に精通しているメンバーでした。
——講義では、具体的にどのような知識を学ぶのでしょうか。
日置 プロダクトマネジメントやデジタルマーケティング、データ分析、AIなどを一通り学びます。ただ、その段階では、まだ“教養”の域を出ません。
後半は、各トレーニーが出身事業部門の課題を起点に個別プロジェクトを実践します。先ずは解くべき課題を見つけ出すところからスタートしてもらい、たとえば出身部門へのヒアリングを通じて業務プロセスを書き出して課題を探すこともあれば、講義で学んだユーザーリサーチを使い、商業施設に1日滞在して、外国人観光客の行動やニーズを調査した例もありました。
実際に苦労しながらDXの企画立案からPoC実施までを自らが船頭となり進めることで、知識を自分のものにしていきます。
日置 悠介(ひおき ゆうすけ)氏
三井不動産株式会社 DX本部 DX四部 DXグループ
2025年に三井不動産へ中途入社。入社後はDXトレーニー制度の企画・推進に携わる。現在はDX本部に所属しながら、日本橋街づくり推進部のDX推進にも携わる。
——事業に精通した人材を約1年間送り出してもらうにあたって、事業部門から抵抗はありませんでしたか。
日置 送り出す部署から「え、1年もいなくなるの?」という声はありました。単に「知識を学びました」「こんなことができるようになりました」で研修を終えると、送り出した部署からすればメリットを感じづらくなってしまいます。
そこで、出身部門のリアルな課題を扱い、成果が見えるところまでやりきる実践を手厚くしています。トレーニー自身が課題や期待する効果を説明し、複数の関係者に協力を求めます。場合によっては、「それではあまりビジネス上の効果が出ないのでは」と現場から指摘され、別の案に切り替えることもあります。ただこれも実際のDXプロジェクトではよくあることですので、ヒト・モノ・カネをどう確保するかも含め、関係者の納得を得ることが重要な実践になっています。
そして、成果が見え始めると、出身部門からも「自分たちの課題解決に直接つながっている。人を出したかいがあった」という声をもらえるようになりました。
湯坐 異動後も出身部門と完全に離れるわけではありません。少なくとも月に1回はコミュニケーションを取り、DX化の方向性がずれていないかを確認します。トレーニーは、DX本部と出身部門の架け橋になりながらプロジェクトを進めるのです。
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関口 達朗(セキグチ タツロウ)
フリーカメラマン。1985年生まれ。東京工芸大学卒業後、2009年に小学館スクウェア写真事業部入社。2011年に朝日新聞出版写真部入社。2014年から独立し、政治家やアーティストなどのポートレート、物イメージカットなどジャンルを問わず撮影。2児の父。旧姓結束。趣味アウトドア。
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山田 優子(ヤマダ ユウコ)
神奈川出身。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、大阪に拠点を移しさまざまな業界・職種を経験してきたが、プロジェクトベースの働き方に魅力を感じて2018年にフリーライターに転向。現在はビジネス系取材記事制作を軸に活動しながら、チームで商品企画・開発にも挑戦中。
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井上奈美香(HRzine編集部)(イノウエ ナミカ)
1994年宮崎県生まれ。京都女子大学文学部国文学科を2017年に卒業し、株式会社翔泳社に新卒として入社。メディア事業部の広告課に配属される。2020年8月に人事向けWebメディア「HRzine」の立ち上げに参画し、HRzineの営業責任者に従事。2023年4月よりHRzine編集部に所属。
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