「投げ手」だけを鍛えても、キャッチボールは成立しない
1on1研修やフィードバック研修を実施している企業は、いまや珍しくありません。伝え方のフレームワークを学び、ロールプレイで練習し、管理職は「なるほど」とうなずいて現場に戻る。それでも会議室の空気は、研修の前と変わりません。なぜでしょうか。
私はよく、フィードバックをキャッチボールにたとえています。投げ手がどれだけ良い球を投げる練習をしていても、受け手が捕る気がなければ成立しません。
多くの企業の研修は、投げ手側だけを鍛えています。一方で、フィードバックを受け取る側に立ったときに問われる力——私はこれを「コーチャビリティ」と呼んでいます——は、ほとんど手つかずのままです。
たとえば、部下との1on1で耳の痛い指摘を伝えた際、部下が「でも」と反論する、もしくは黙り込む。こんな反応が続くと、上司の心情的には率直な言葉を投げにくくなります。次第に当たり障りのない話を共有して、1on1の時間をやり過ごすようになるでしょう。
そして、受け手の問題は部下に限りません。むしろ深刻なのは、上司が受け手に回ったときです。部下から提言されたとき、表情を曇らせる。「君にはまだ分からない」と話を打ち切る。一度こうした反応を見せれば、部下は諦めて段々と意見しなくなります。こうして、「特にありません」しか出てこない、形骸化した1on1が生まれるのです。
投げ手の問題に見えていたものの半分は、実は受け手の問題でした。そして受け手の力は、新入社員や若手よりもむしろ、役職が上の人材ほど重要です。
投げ手と受け手をともに育てたうえで、もう1つ意識したいのが、フィードバックの「方向」です。上司から部下への一方向だけでは足りません。部下から上司へ、同僚から同僚へ。あらゆる方向で率直な言葉が行き交うようになってはじめて、フィードバックは評価の道具ではなく、互いを高め合う日常の習慣となります。
相手の成長を願う気持ちがなければ、ただの叱責になる
土台を押さえたうえで、次は管理職が最も苦手とする「耳の痛い話」を、どう伝えればよいのかを考えていきましょう。
伝え方の技術に入る前に、欠かせない前提があります。「何のために伝えるのか」という、伝え手の「マインド」です。
フィードバックは、相手を詰めたり、責めたりするためのものではありません。出発点に置くべきは、「相手に成長してほしい」という願いです。同じ内容でも、ミスをとがめる気持ちから出た言葉と、次はうまくいってほしいという気持ちから出た言葉とでは、相手への届き方がまるで違います。人は、言葉そのものより、その言葉を発した相手の気持ちのほうを敏感に読み取るからです。「責められている」と感じた瞬間、どれだけ正しい指摘でも、相手の耳は閉じてしまいます。
だから、いら立ちを抱えたまま口を開いてはいけません。「なぜできないんだ」という気持ちが先に立っているなら、いったん深呼吸して、「この人に成長してほしいから伝えるのだ」と自分の動機を整える。技術は、このマインドがあってはじめて生きます。逆にいえば、どれだけ伝え方の型を覚えても、相手の成長を願う気持ちがなければ、フィードバックはただの叱責に変わってしまうのです。

