戦略や施策に正解がなく、「この方法で合っているのだろうか」と常に不安がつきまとう人事業務。多くの理論を学んでも、いざ自社の実務に当てはめようとすると、その距離に不安を感じることも少なくありません。そこで今回は、心理学の観点から、理論と現場の橋渡しとなる“心構え”を紹介する書籍『「人事」のための心理学』(日本実業出版社)を紹介します。
理論と現場をつなぐ“心構え”の重要性
まずは、筆者・佐藤映氏のユニークな経歴を紹介しましょう。佐藤氏は、心理カウンセリングを専門とする臨床心理士・公認心理師でありながら、適性検査の開発に関わったことをきっかけに、組織変革を支援する会社へ入社。今は、アセスメントツールの開発者として多くの経営者や人事を支援している「人事の現場を知る心理学の専門家」です。
本書『「人事」のための心理学』(日本実業出版社)は、そんな佐藤氏が人事・組織の現場課題と臨床心理学を掛け合わせ、制度設計や意思決定の軸となる考え方を紹介した1冊です。
「人事のための心理学」と聞くと、「候補者や社員に会社を好きになってもらえるような心の操り方を紹介しているのかな」と想像する方もいらっしゃるかもしれません。(私がそうでした)
そんな方のために前提をお伝えすると、心理学とは人間の心理や行動を科学的に解明する学問のこと。そして佐藤氏によると、心理学で扱う理論と人事が直面する課題には、重なる部分が多いのだそう。
人事の方々が日々直面している悩みや判断の多くは、心理学が扱ってきたテーマと重なっているにもかかわらず、その橋渡しはまだ十分でないことを痛感しています。(p.5)
本書では、客観的なデータやエビデンスにもとづいた「科学の知」だけでなく、目の前の1人の人間と向き合い、相互に交流する中で悩みを解決に導く「臨床の知」の重要性を説いています。
心理学以外にも、人事領域には多くの理論やフレームワークがありますよね。みなさんも、自身の業務のヒントを見つけるために、書籍やセミナーを通して学ぶことも多いでしょう。しかし、いざその理論を自社に当てはめようとして、「これで合っているのだろうか」と不安になった経験はありませんか。
そんな理論と現場のズレを埋めるのが、理論をもとにしながらも現場課題に向き合うための「臨床の知」であり、「心構え」なのです。目の前の人・組織の課題と向き合うときにこの心構えを知っておくことで、人事は自信を持って前向きに施策を進められるようになります。
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ミスマッチを考えるときの“心構え”とは
本書では、「採用と選考」「配属と定着」「働きがいとエンゲージメント」「目標管理とマネジメント」「メンタルヘルス」の5つの領域について、具体的な業務課題と解決のための“心構え”が紹介されています。
たとえば、採用における「ミスマッチ」。この課題を考えるときによく、「あの人にこの仕事は合わなかった」「あの上司とあの部下は相性が悪かった」と原因を個人だけに求めがちです。
しかし、実際のミスマッチは環境側の要素によっても起こるもの。佐藤氏は、「パーソン・エンバイアロンメント・フィット(Person-Environment Fit)」という用語を紹介し、人と組織のフィットを考えるときには、必ず個人と環境の相互作用を考慮すべきだと指摘します。この“心構え”を持つことで、「配属先やフォロー体制といった環境に改善の余地はないのだろうか」と、前向きな打ち手を考えることができるようになります。
このように、人事の現場をよく知る佐藤氏だからこその解像度で語られる知見は、日々の業務に新鮮なヒントを与えてくれます。
本書を手に取ることで、人の心が複雑に絡み合う人事の仕事において、科学的な視点で実務を捉えられるのではないでしょうか。明日からの思考や行動を変えられる、おすすめの一冊です。
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井上奈美香(HRzine編集部)(イノウエ ナミカ)
1994年宮崎県生まれ。京都女子大学文学部国文学科を2017年に卒業し、株式会社翔泳社に新卒として入社。メディア事業部の広告課に配属される。2020年8月に人事向けWebメディア「HRzine」の立ち上げに参画し、HRzineの営業責任者に従事。2023年4月よりHRzine編集部に所属。
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