人材育成施策における「研修」の重要性は1割程度?
こんな課題はありませんか?
- 研修が実務で役立てられている実感がない
- 従業員に研修受け放題の環境を提供しているのにあまり利用されていない
- 受講必須のeラーニングについて、多くの従業員は「クリック飛ばし」で完了していることを知っている(が黙認している)
- 人事(研修担当)も、本音では研修を「ないよりはマシ」くらいにしか思っていない
研修は企業の人材育成施策として広く定着しており、社内に人材開発や人材育成を専門とする部署を置くことも一般的になっています。また、リスキリングの国策による助成金の後押しもあり、eラーニングなどの「研修受け放題」環境を提供する企業が増えています。さらに、人的資本経営の流れから、「研修時間」「研修投資額」「研修プログラム数」「研修受講者数・受講率」などの指標を社外に開示し、研修に力を入れていることをアピールする企業も目立つようになりました。
一方で、人事を含む企業の方々に「人材育成において重要なことは何ですか?」と尋ねると、「修羅場を経験させる」「仕事を任せてみる」「失敗から学ばせる」「背中を見せる(自身の仕事のやり方を見せることで学ばせる)」といった、経験・OJTに関する回答が多く返ってきます。次いで、「上司と部下の1on1を定期的に実施する」「メンターをつける」「チーム内で教え合う」といった他者からの学び(薫陶)が続きます。特定の定型業務遂行のための育成を除くと、「研修」が重要であるという回答が返ってくることが多くありません。
これに関連するものとして、「ロミンガーの法則」というものがあります。これは、リーダーの成功要因を分析するために、エグゼクティブ約200人に「自分の成長に最も役立ったものは何か」を調査した結果、「経験が7割、薫陶が2割、研修が1割」という回答割合になったというもののようです。そして現在ではこの調査結果が定説へと転じ、「人材育成の施策は、経験7割、薫陶2割、研修1割のバランスで設計すべきである」という人材開発のセオリーとして定着しつつあります。
ここでロミンガーの法則を紹介したのは、その根拠の弱さを指摘したり、解釈を訂正したりするためではありません。重要なのは、人材育成に関わる多くの方が、この「7:2:1の法則」、すなわち「研修は1割程度で十分である」ということに妥当性を感じ、納得しているという点です。研修のための専門組織まで立ち上げ、当たり前のように研修を実施しているにもかかわらず、「研修による人材育成への貢献度は1割程度にすぎない」と言われても、「まあ、そんなもんだよね」と受け入れてしまう共通認識が出来上がっているのです。
eラーニング「形骸化」の課題と人事の本音
研修はeラーニングが主流となり、いつでもどこでも学べる環境が整いました。また、外部プロバイダと契約し、幅広い学習コンテンツを提供する企業も増えています。このように従業員にとって学習機会が大きく広がる一方で、研修を提供する人事(人材開発部門など)は次のような課題を抱えています。
「研修受け放題の契約をしているのに、受講率が低い状態が続いている」
「受講必須の研修の完了率が低く、受講完了期限も守られていない」
「多くの従業員が研修内容をまともに読まずにクリック連打で飛ばすなど、テストを“ずるい”方法で終わらせている」
一方、受講対象である従業員や現場の上司に話を聞くと、研修に対してネガティブな意見が漏れてきます。
「必須研修を放置しているとリマインドがしつこいので、とりあえずクリック連打で終わらせている」
「たくさんの研修が提供されているのは知っているが、現在の業務や将来のキャリアに役立つと思えないため、必須研修以外は受けていない」
「ただでさえ仕事が忙しいのに、研修なんかに時間を取られたくない」
こうした現場の声を人事に共有すると、「うちの社員は自己成長への意識が低く、キャリア形成にも受け身である」と嘆き、受講率の低さを「従業員の意識の問題」として片付けてしまう方が少なくありません。
しかし、その人事担当者自身が日ごろから自発的に研修を受講しているかを尋ねると、「忙しくてなかなか受講できていない」などと言い訳をし、当の本人すら研修を活用していなかったりします。結局のところ、人事の立場としては「人的資本経営のアピールとして、受講者数や受講率などの指標を上げたい」という狙いが先行しており、本音の部分では、人事自身も「研修そのものの効果」をそこまで重要視していないようです。
経験学習に貢献しないタニンゴト研修
効果的な学習とはどのようなものなのでしょうか。「経験7割」の法則にも通じる、コルプの経験学習モデルというフレームワークが参考になります。
- 具体的な経験:自ら学習対象の業務を体験する
- 省察的観察:自身の体験を振り返り、うまくいったこと・改善すべきことを考える
- 抽象的概念化:体験から学んだことを他の場面でも使えるように、自分用の教訓や法則に落とし込む
- 能動的実験:学んだ教訓や法則を他の場面で実際に試す
これら①~④のサイクルを回し続けることで、経験を能力へと昇華させていくという考え方です。
この経験学習モデルに研修を関連付けてみます。
研修は「①具体的な経験」に対して、疑似的な学びを提供したり、体験を補完したりするものとして位置付けられます。また、研修から一定期間を空けたのち、フォローアップ研修やアンケートで「業務にどう活かされているか」を振り返ることがありますが、それが「②省察的観察」にあたります。「③抽象的概念化」と「④能動的実験」については、研修で学んだことをもとに、受講者各自が実務の中で実践すべきこととされ、研修の範囲外となっています。
このように、一見すると研修は①と②をカバーできているように見えますが、実際はここにも問題が潜んでいます。一般的に研修は多くの方が一律に学べるようにつくられています。受講者個人の会社、組織、職務などに焦点が当たっていないため、受講者は他人事として捉えがちで、研修後は学んだことをどんどん忘れてしまいます。また、自身の業務との関連性もあまり認識していないため、研修フォローアップのアンケートに対しても「役に立っていると思います」「よかったです」といった無難な回答に終始してしまい、省察的観察は行われません。
その結果、研修は経験学習への貢献度が低く、重要でないとみなされます。人材育成において「研修の重要度は10%程度である」と言われても皆納得してしまうのは、多くの方が実際にこのような体験をしているからなのです。

