多様性を高めるフェーズから活かすフェーズへ
少子高齢化の対策として、2015年に当時の政府が掲げた「一億総活躍社会」。子育て支援や介護支援の充実、高齢者や障がい者の雇用確保、氷河期世代の就職支援などが進められ、その成果として女性や高齢者、障がい者の労働参画率は着実に高まっています。
一方で、女性の非正規比率や役員・管理職比率の低さ、健常者と区分された障がい者雇用など、彼らが十分に活躍しきっている状態とはいえないことは、みなさまも実感されているのではないでしょうか。
今回ご紹介する書籍『異質を認め合う組織 多様性に違和感を感じないためのDEIBのすすめ』(加藤守和・吉田亜希子 著/日本能率協会マネジメントセンター)では、今のこの状態を、人材の「量」が充足したにすぎないと指摘しています。
これからは、「多様性を活かす(生産性を上げる)」フェーズに移行しなければなりません。多様性は所与のものとして、組織の戦力を引き上げていかねばならないのです。(p.48)
そもそも、“多様性を活かす”ことはなぜ生産性の向上につながるのでしょうか。本書では、同質性と多様性のメリットとデメリットを整理したうえで、旧来の「男性中心の労働社会に戻る選択肢はない」と言い切ります。
とはいえ、日本企業に「同質な組織」へ立ち戻る選択肢はありません。労働人口が減少するなか、現有の同質的な人材だけで人員を確保し、持続的な成長を遂げることは困難です。(中略)求められているのは、多様性をリスクでなく、組織の力へと転換するマネジメントなのです。(p.51)
DEIB施策は、中長期に取り組む覚悟を
では、多様性を単なる「数合わせ」ではなく、組織の力へと変えていくにはどうすればよいのでしょう。
そのヒントとして、本書の第2章では、多様性のある組織開発に求められる「9つの視点」を提示しています。「知の多様性を高める」「多様性が生む断層を埋める」「多元的無知の克服」「心理的安全性の確保」「責任範囲の明確化」「思考の枠組みを広げる」「関係性の質の向上」「EQを高める」「多様性への信念の浸透」——。
一見すると多いと感じるかもしれません。しかし、事例や理論を用いながら1つずつていねいに解説されており、どれも大事な視点であることがわかります。また、自身や自社に欠けている視点に気づくこともできます。
これらの視点を持ったうえで、続く第3章では、「DEIB推進のための5つの取り組み」を紹介。多様性を活かす組織になるための具体的な打ち手が経営戦略、啓発施策、マネジメント改革、推進体制、人事制度の5つの領域から詳述されています。
なお、これらの施策を参考にするにあたって、本書は1つの前提を提示しています。それは、組織の多様性を活かそうとする施策は、短期的な成果を狙うものではなく、場合によっては数年にわたる中長期的な取り組みであるということです。
啓蒙啓発のための研修を一時的に集中的に実施しても、組織の意思決定や行動様式が一朝一夕に変わることはありません。初期段階では、「また会社が流行に合わせて何か始めた」という懐疑的な反応が現れることも想定内です。経営の視点に立てば、こうした反応に動じるのではなく、継続すること自体がメッセージであると捉えます。(p.117)
この「継続すること自体がメッセージになる」という一貫した姿勢の重要性は、私自身もこれまでの企業取材を通じて、現場から強く感じてきたことでもあります。
本書の終盤では、理論の解説だけでなく、資生堂、JTB、丸井グループという先進企業に取材した事例紹介もあります。実際に、多様性を組織の力へと転換している企業のリアルな試行錯誤を学べるでしょう。
ダイバーシティを一過性の流行で終わらせず、自社の持続的な成長の原動力に変えたいと願う人事担当者に、多くの気づきを与えてくれる一冊です。

