1on1を導入したものの、形式的な会話に終始している。研修で褒め方を学んだはずなのに、現場ではなかなか実践できない。耳の痛いフィードバックを伝えようにも、ハラスメントにならないか気にして飲み込んでしまう——人事担当者の皆様は、管理職からこのような話を聞くことがよくあるのではないでしょうか。これらの課題には共通項があります。フィードバックを「投げ手側のスキル」として捉え、鍛えようとしている点です。フィードバックを成立させるには、キャッチボールと同様に、投げ手と受け手どちらのスキルも不可欠なのです。今回は、前回紹介した「フィードバック経営」3本の柱の1つである「フィードバック文化の醸成」について、多くの方が悩んでいるであろう1on1を主軸に掘り下げます。社内の対話を促す仕組みを導入したり、研修を実施したりしても変わらなかった組織文化を、「率直に伝え合うのが当たり前」にするには何をすればいいのか。事例も交えながら解説します。
「投げ手」だけを鍛えても、キャッチボールは成立しない
1on1研修やフィードバック研修を実施している企業は、いまや珍しくありません。伝え方のフレームワークを学び、ロールプレイで練習し、管理職は「なるほど」とうなずいて現場に戻る。それでも会議室の空気は、研修の前と変わりません。なぜでしょうか。
私はよく、フィードバックをキャッチボールにたとえています。投げ手がどれだけ良い球を投げる練習をしていても、受け手が捕る気がなければ成立しません。
多くの企業の研修は、投げ手側だけを鍛えています。一方で、フィードバックを受け取る側に立ったときに問われる力——私はこれを「コーチャビリティ」と呼んでいます——は、ほとんど手つかずのままです。
たとえば、部下との1on1で耳の痛い指摘を伝えた際、部下が「でも」と反論する、もしくは黙り込む。こんな反応が続くと、上司の心情的には率直な言葉を投げにくくなります。次第に当たり障りのない話を共有して、1on1の時間をやり過ごすようになるでしょう。
そして、受け手の問題は部下に限りません。むしろ深刻なのは、上司が受け手に回ったときです。部下から提言されたとき、表情を曇らせる。「君にはまだ分からない」と話を打ち切る。一度こうした反応を見せれば、部下は諦めて段々と意見しなくなります。こうして、「特にありません」しか出てこない、形骸化した1on1が生まれるのです。
投げ手の問題に見えていたものの半分は、実は受け手の問題でした。そして受け手の力は、新入社員や若手よりもむしろ、役職が上の人材ほど重要です。
投げ手と受け手をともに育てたうえで、もう1つ意識したいのが、フィードバックの「方向」です。上司から部下への一方向だけでは足りません。部下から上司へ、同僚から同僚へ。あらゆる方向で率直な言葉が行き交うようになってはじめて、フィードバックは評価の道具ではなく、互いを高め合う日常の習慣となります。
相手の成長を願う気持ちがなければ、ただの叱責になる
土台を押さえたうえで、次は管理職が最も苦手とする「耳の痛い話」を、どう伝えればよいのかを考えていきましょう。
伝え方の技術に入る前に、欠かせない前提があります。「何のために伝えるのか」という、伝え手の「マインド」です。
フィードバックは、相手を詰めたり、責めたりするためのものではありません。出発点に置くべきは、「相手に成長してほしい」という願いです。同じ内容でも、ミスをとがめる気持ちから出た言葉と、次はうまくいってほしいという気持ちから出た言葉とでは、相手への届き方がまるで違います。人は、言葉そのものより、その言葉を発した相手の気持ちのほうを敏感に読み取るからです。「責められている」と感じた瞬間、どれだけ正しい指摘でも、相手の耳は閉じてしまいます。
だから、いら立ちを抱えたまま口を開いてはいけません。「なぜできないんだ」という気持ちが先に立っているなら、いったん深呼吸して、「この人に成長してほしいから伝えるのだ」と自分の動機を整える。技術は、このマインドがあってはじめて生きます。逆にいえば、どれだけ伝え方の型を覚えても、相手の成長を願う気持ちがなければ、フィードバックはただの叱責に変わってしまうのです。
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三村 真宗(ミムラ マサムネ)
株式会社U-ZERO 代表取締役 CEO 兼 CPO
慶應義塾大学卒業後、創業メンバーとしてSAPジャパン株式会社に入社。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベタープレイス・ジャパン株式会社などを経て、2011年に株式会社コンカーに参画。代表取締役社長として、社員一人ひとりの声を経営に活かす組織づくりを徹...
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