本連載ではここまで、ピープルマネジメント領域における生成AI活用の実態と具体的な活用方法、さらに組織として活用を定着させるためのポイントを見てきました。第1回では、すでに半数以上の管理職がピープルマネジメント業務で生成AIを活用しており、活用者の8割以上が「良い変化」を実感していることを紹介しました。第2~3回では、1on1や育成、目標設定、評価といった場面で、生成AIが情報整理や思考の壁打ちに活用されている実態を取り上げました。そして第4回では、活用を広げるためには、社内ルール整備やユースケース共有、さらに「試してみること」を歓迎する組織文化が重要であることを確認しました。では、こうした変化の先に、マネジメントそのものはどのように変わっていくのでしょうか。最終回となる今回は、調査結果から見えてきた内容をもとに、「生成AI時代のピープルマネジメント」について考えていきます。
調査データが示す本質的な示唆
まず重要なのは、生成AIができることと、できないことを分けて考えることです。生成AIは、大量の情報を整理し、視点を広げ、言語化を支援することに優れています。過去の面談内容を整理したり、目標設定の抜け漏れを確認したり、フィードバック表現を検討したりすることは得意です。一方で、メンバーの表情の変化や場の空気感、その人が本当は何を感じているのかを深く理解することはできません。
最終的に相手を理解し、関係を築くのは、あくまで管理職自身です。だからこそ、ピープルマネジメントにおける生成AI活用を、単なる「効率化ツール」として捉えるだけでは不十分です。
実際、調査では「業務の効率化・時間短縮につながった」という回答とほぼ同じ割合で、「メンバー1人ひとりへの対応が充実した」という回答が見られました(詳細:第1回)。この結果は非常に象徴的です。生成AI活用によって起きている変化は、単なる時短ではなく、情報整理や思考の支援によって、メンバー1人ひとりに向き合うための準備や関わり方をより丁寧に考えられるようになっている点、言い換えれば「1人ひとりに向き合う余白」が生まれている点にあるのではないでしょうか。
また、生成AIの活用頻度が高い人ほど、自身の仕事成果を高く認識している傾向も見られました。もちろん、これは因果関係ではなく相関関係に過ぎません。ただ、少なくとも見えてきたのは、成果を上げている管理職ほど、生成AIを「単なる効率化」ではなく、「より良いマネジメントのための補助役」として使っている可能性です。成果を上げている管理職ほど、生成AIを「人と向き合う時間を減らすため」ではなく、「より良く向き合うため」に活用している可能性があるのです。
生成AIの本当の価値は「対話の質を高めること」にある
ここで改めて考えたいのは、ピープルマネジメントの本質です。これまで見てきたとおり、現在の管理職は大きな負担を抱えています。近年、負担軽減のための効率化という話をよく耳にしますが、マネジメントは本当に「効率化」すべきものなのでしょうか。
もちろん、管理職の負担軽減は重要です。しかし、ピープルマネジメントの価値は、本来「人と向き合うこと」にあります。1on1や面談は、単に情報交換をする場ではありません。メンバーが「自分を理解しようとしてくれている」と感じられるかどうかが、その後の関係性に大きな影響を与えます。
その意味で、生成AIの本当の価値は「対話の質を高めること」にあると考えます。たとえば、事前に過去の会話を整理することで、以前話していた悩みを自然に振り返ることができます。メンバーの特性を踏まえて伝え方を考えることで、より相手に届くコミュニケーションができますし、自分だけでは思いつかなかった視点を得ることで、これまでとは違う関わり方の選択肢も見えてきます。
生成AIが直接メンバーをマネジメントするわけではありません。しかし、管理職がより良い対話を行うための準備や思考を支えることはできます。そして、対話の質が変わると、関係性が変わります。関係性が変わることで、お互いのとらえ方や考え方も変わり、行動が変わっていきます。さらに、その積み重ねが、組織の成果につながっていきます。「関係性の質→思考の質→行動の質→結果の質[1]」と変化していくイメージです。生成AIは、この最初の「関係性の質」を高めるための支援役になり得るのです。
注
[1]: KIM,D.H., “What is your organization's core theory of success?”, The Systems Thinker8(3), PEGASUS COMMUNICATIONS, 1997 April.
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- 生成AIがマネジメントにもたらす本質的変化は、業務効率化ではなく「メンバーへの向き合い方」
- 調査で明らかになった、組織で生成AIを活用するための環境整備と定着のポイント
- 調査で明らかになった、目標設定・評価における生成AIの活用事例と使い方の共通項
- この記事の著者
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井出 真理子(イデ マリコ)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRMサービス推進部 サービス開発グループ
IT企業で法人営業や事業開発に従事した後、2025年リクルートマネジメントソリューションズに入社。新規サービス企画や調査業務を担当し、現在は360度サーベイを中心に、人材・組織開発領域における販促企画やサービス開...
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