この転換の中心に、人事が立つ
ここまで読んで、「AIの導入や組織OSの変革はIT部門の仕事ではないのか」と思われたかもしれません。
そのような方は、3要素の中身をもう一度見てください。ハーネスの核心である判断基準の言語化——行動指針・評価基準・権限・会議体を文書に書ききること——や、「AIに働かせきる」ために必要な役割の再設計・行動の定着は、職務設計とチェンジマネジメントという、人事が長年扱ってきた領域そのものです。
トップの熱狂そのものを人事が代行することはできませんが、トップがAIを自ら使い、意思決定につなげるための場や仕組みは、人事が経営企画とともに設計できます(詳しくは第2回で扱います)。
一方で、データをAIが参照できる状態に整える仕事は、AI/IT・データ部門との共同領域です。トップが方向を示し、人事が職務・評価・行動変容を担い、技術部門が実装基盤を担う──だからこそ人事は、この変革の共同責任者になりえます。
これは机上の空論ではありません。2026年6月1日、国内のテクノロジー企業2社が、同じ日に、人事とAIをめぐる組織改編を発表しました。メルカリでは、執行役員 CTO Japan Businessであった木村俊也氏がCHRO兼CAIOに就任しました[5]。同じ日、Sansanでは取締役/執行役員/CHROの大間祐太氏が新設のCAXO(Chief AI Transformation Officer)に就任しています[6]。
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注
[5]: メルカリ「CTOの木村俊也がCHRO兼CAIOに就任」
[6]: Sansan「「Chief AI Transformation Officer(CAXO)」を新設。取締役/CHRO 大間祐太が就任〜全社横断でAXを推進し、非連続な事業成長を目指す〜」
一方は技術の責任者が人事の領域へ、他方は人事の責任者がAIの領域へ。両社の発表に共通していると筆者が見るのは、AI活用をツールの導入で完結させず、人と組織の運営基盤の変革と一体で扱う姿勢です。
この新しい責任領域に、人事がAI/IT部門や経営企画とともに座る準備があるか。問われているのは、主導権争いではなく、職務設計・評価・権限・行動の定着という変革の中核を、共同責任者として担えるかどうかです。
では、AIによる定型業務の自動化が進んだとき、日本では何が起きるのでしょうか。雇用慣行の異なる日本では、米国型の人員削減よりも、人事の企画機能が経営企画やIT/AI部門と統合されていく「吸収」の形で現れる可能性が高いと筆者は見ています。席が「なくなる」のではなく、気づけば「別の部門の中の一機能」になっている。だからこそ、「判断基準の言語化」と「AIを前提とした行動の定着」という組織OS変革の中核を、人事が担いつづける意味があります。
自社の現在地を見立てる「3つの問い」
ここで、自社はAIが働ける組織になっているかを確認する3つの問いを紹介します。いずれも、今すぐに答えられる問いです。厳密な診断基準ではなく、議論を始めるためのチェックリストとして使ってください。
- トップの熱狂:
- トップ自身がAIを日常的に使い、「AIで業務のやり方を変える」という経営判断を、この半年に1つでも実行しましたか? AIツールの契約や現場への呼びかけだけでは、AI導入はまだ始まっていません。
- ハーネス:
- 新しく入った社員に渡せる「うちのやり方」の文書と、AIが参照できる場所に残った業務の記録はありますか? それとも口伝えと個人のメモですか?人が読めないものは、AIも読めません。
- AIを働かせきる:
- 「AIが準備・実行し、人が方向づけと採否を判断する」業務が、1つでも継続的に動いていますか? 動いていなければ、AIの仕事は個人のお手伝いで止まったままです。
支援の現場では、この3問によどみなく答えられる企業はまれです。2問以上答えに詰まるなら、AIツールだけでなく組織OSにも停滞の要因がないか、検討する余地があります。
まとめ:明日からの一手
最後に、本稿のまとめと明日からの一手を紹介します。
まとめ
- AIを組織運営の前提に置く動きは、増員する前の判断(Shopify)、少人数での事業立ち上げ(Base44)、人事サービスの再設計(IBM)と、すでに複数の形で現れている
- 筆者は、「AIツールを配ったのに組織や成果が変わらない」の背景に、「トップの熱狂」「ハーネス(判断基準の言語化とAIが読めるデータ)」「AIに働かせきること」という3要素の不在があると見ている
- トップが方向を示し、人事が判断基準の言語化・役割設計・行動の定着を担い、AI/IT部門が技術基盤を担う。メルカリとSansanが同日に示したように、この変革の責任領域において、人事は共同責任者として中心に立てる
明日からの一手
次の経営会議または人事会議で、問い直してみてください。「うちのAI活用が止まっている原因は、ツールだけでなく組織OSにもないか?」と。上の3つの問いを添えれば、議論は具体的に動き始めるでしょう。
次回は、この転換が動き出す最初の条件──「トップの熱狂をどう設計するか」について、Shopifyや国内企業の事例も手がかりに、経営トップのコミットメントを行動へつなげる方法を、人事の動き方として扱います。

