経営層の本音
日本の人材に関して、次図のような国際比較データで芳しくない状況が示されることが少なくありません。
(各データの出典:パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査—はたらくWell-beingの国際比較」、厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析 第Ⅱ部」、GALLAP「State of the Global Workplace (2025)」をもとに作成、IMD「2023年世界デジタル競争力ランキング 日本は総合32位、過去最低を更新」、公益財団法人 日本生産性本部「日本の労働生産性の動向 2023サマリー」)
この根底には、単なるデータでは語りきれない、日本企業に共通する構造的な問題が潜んでいると私は感じています。それは、経営層が抱く本音の中に端的に現れることもあります。
これは、私がある事業部門のHRBP(Human Resource Business Partner)として社員エンゲージメント改善に取り組んでいたころの経営幹部ワークショップでの出来事です。ある幹部から出た「やる気や成長は人から与えられるものではない。自分たちの時代は自分でやる気の素を見つけたし、自らの力ではい上がった」という言葉に同調が広がり、「今の社員は甘えている」という空気が場を支配したことで議論が停滞しました。おそらく過去の成功体験に基づく多くの経営幹部の本音でしょう。
そのとき、私の上司である人事責任者が次のように話を切り出しました。「皆さんは『上司に育てられた覚えはない』とのことですが、『会社』という環境に育てられたとは言えないですか? 皆さんの若いころと今とでは環境が違います。昔のように挑戦の機会が豊富だった時代とは異なり、今は『痩せた土壌』です。この環境変化に向き合い、まずは土壌を整えることが、今の経営の責任ではないですか」
この問いかけに、会場はシーンと静まり返りましたが、それは拒絶ではなく、固定観念に捕らわれていた参加者の新たな気づきの表れでした。幹部たちの顔つきが、「他人事」から「自分事」へと変わった瞬間です。
この経験は、「経営層が構造的問題から目を背け、過去の成功体験から現状を見ている限り、人材育成は機能しないのだ」という強烈な思い出として、私の記憶に刻まれました。「人が育つメカニズム」を時代の変化に応じて再構築することこそが急務なのです。しかし、そのメカニズムを設計するうえで、まず私たちが向き合うべき問いは「どのような人材を育てるべきなのか」という本質的なものでした。
目指すべき人材育成とは
この答えを探す中で、私自身も深く考えさせられた出来事があります。HRBPとして展開した各種人材育成プログラムに手応えを感じていた矢先、ある事業責任者から「君ね、この会社には人を育てるメカニズムなんてないんだよ。育つやつは勝手に育つ。そうでないやつは何をやっても変わらない」といきなり言われ、一瞬言葉に詰まりました。
確かに研修で知識やスキルは習得できている。しかし、仕事の成果やビジネスを牽引する動きにつながったかどうか、このとき自信を持って反論できなかったのです。この悔しさと無力感が、「真に育てるべき人材とは何か」を自分に強く問いかけるきっかけとなりました。
その経験もあり、経営を担う立場になったいま、経営者が渇望する人材育成の本質的な目標とは、単にスキルセットを装備させることでも優秀な作業者を増やすことではなく、「高い成果を上げようとする意欲を持ち、本質的な課題解決のために自律的に行動する人材」を生み出すことではないかと考えるに至りました。
AIの驚異的な進歩によりVUCA(不確実性)が極まる現代は、自律型人材の活躍がいっそう求められます。こうした人材を意図的に育成・創出する仕組みづくりこそ、人事部門と経営者が向き合うべき真の課題だと考えます。
それには、かつて日本企業が成長していた時代のメカニズムと、なぜそれがいま機能不全に陥っているのかを考察し、ひも解くことが有効です。働く環境の変化によって求められる人材像も変化するはずです。これらを踏まえ、今の時代に求められる人材を生み出すための新しい成長メカニズムを提言してみたいと思います。

