人的資本の開示と人材マネジメントへの活用
大手企業4000社を対象に、2023年3月決算の有価証券報告書から人的資本の開示が義務化されます。人的資本開示の背景として、企業の無形資産の増加が挙げられます。米国では、市場価値に占める無形資産の割合が1975年には17%でしたが、2020年には90%まで増加しています(内閣府 知的財産戦略推進事務局 構想委員会 資料「知的財産と投資」より)。
その無形資産の中でも特に注目されているのが人的資本です。現在、多くの投資家が、経営者から人材戦略に関する説明が出されるのを待っています。
人的資本開示の義務化に伴い、企業は開示に向けた対応が必要となります。義務が増えるようですが、企業の体質改善の機会にもなりえます。例えば、サーベイで従業員満足度を調査した結果、満足度が低いのであればその原因を分析します。その結果、「評価の納得感」が原因だと分かれば、評価制度の再設計などの手が打てます。また、男女間で賃金や業務機会の格差が大きいのであれば、報酬制度や配置を見直すといった施策が考えられます。
開示情報のこうした活用は、「人材マネジメント」という考えに内包されたものです。人材マネジメントとは「企業の理念・経営目標を達成するために、人材を活用する人事戦略」です。日本企業において、その重要性はますます高まっています。日本では労働力人口の減少が進み、さらにリモートワークなどの多様な働き方が広がってるからです。このような環境で企業が成長するためには、人材マネジメントに取り組み、「働きたいと思う環境の整備」「選ばれる組織づくり」を目指す必要があるのです。
人材マネジメントの定量指標を定め、公表することが人的資本開示といえます。人材マネジメントと人的資本開示の関係は、図にすると次のようになります。
例えば、配置や人事制度の見直しといった、多様な働き方を支援する人材マネジメントを推進することで、女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女間賃金格差といった開示データが変化します。開示データを人材マネジメントに活かし、再びデータを確認する。このPDCAサイクルを回すことで、企業のさらなる成長につながります。