「プレミアムフライデー」が浸透しなかった理由
皆さんは、2017年に働き方改革を狙って始まった「プレミアムフライデー」(=月末の金曜日は、15時に仕事を終えてノー残業に)というキャンペーンが、かつて世の中を賑わせたことを記憶しているでしょうか?(p.3)
世間にまったく定着しなかった「プレミアムフライデー」を例に挙げ、その理由を「企業現場の実態を知らない経営産業省の官僚や政治家の安易な施策だった」と指摘するのは、リンクアンドモチベーション 代表取締役会長の小笹芳央氏。
プレミアムフライデーに限らず、「人的資本経営」「パーパス経営」「ジョブ型雇用」「自律分散型組織」「女性管理職比率」などなど、さまざまなバズワードがはびこるいま、世の潮流に乗ろうとする多くの企業において、「手段が目的化」してしまっていると小笹氏は指摘します。
今回ご紹介する書籍『組織と働き方の本質』(日経BP 日本経済新聞出版)では、こういった状況に危機感を抱いた小笹氏が、表層的な流行に踊らされないためにはそれぞれの「本質」を見抜くことが必要だと述べ、社会的要請やバズワードの根源的な意味合いに迫ります。
「キャリアデザイン」という言葉の矛盾とは
本書では、「会社」や「組織」とはそもそもどのようなもので、どのような構造で不祥事や課題が生まれてしまうか。また、「女性管理職比率」「人的資本経営」といった最近よく耳にする(HRzineでもよく取り上げています)テーマが、なぜ必要とされているのか、どのような誤解があるのか、本質的な課題や目的はどこにあるのかなどを、組織変革のプロの目をとおして詳しく解説しています。
たとえば、終身雇用制度が成立しなくなり、不確実性が高まる現代において注目されている「キャリアデザイン」。個人が自身のキャリアを主体的に捉えて計画・実現する考え方です。
小笹氏は、このキャリアデザインという言葉に“奇妙さ”を感じているといいます。
それは、過去の歩みを表す「キャリア」を「デザインする(設計・計画する)」という語義的な矛盾や、自身のキャリアを計画してそのとおりに実現している人には会ったことがないという小笹氏の経験に裏付けられており、個人のキャリアの8割は偶発的な出来事から生じるという「ブランド・ハップンスタンス理論」を用いて、「偶発性を活かしたキャリアを歩んでいく」という姿勢のほうが現実的だからです。
本書ではこの後、「Will」「Can」「Must」を用いて自分のキャリアを考える「キャリアデザインの3つの輪」を“現実的に”捉える方法や、企業事例の紹介へと進みます。
この、「キャリアデザイン」への指摘だけでも、本書がバズワードが独り歩きすることへ待ったをかけ、“本質”を捉えようとするものであるとイメージできたのではないでしょうか。
本書では、このようなトレンドを10個以上も取り上げています。どれも、最近の人事担当者にとってはよく聞く言葉ばかりです。次の目次を見て、「言葉は知っているけれど正しく理解できているか自信がない」「今この言葉に惑わされているかも」と感じるテーマがある方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
目次
- 第1章 会社・組織・マネジメントの本質
- 1「会社」とは、いったいナニモノなのか
- 2「組織」の成立要件と存続要件
- 3「マネジメント」の本質的な役割
- 第2章 社会的要請の本質
- 1「女性管理職比率」の罠
- 2「人的資本経営」の真相
- 3「働き方改革」の困惑
- 4「日本版ジョブ型雇用」の正体
- 第3章 個人の働き方の本質
- 1「働く個人」は「投資家」である
- 2「ワークライフバランス」の落とし穴
- 3「キャリアデザイン」の幻想
- 4「副業・兼業」の是非
- 第4章 組織変革の本質
- 1「自律分散型組織」の限界
- 2「パーパス経営」の成否
- 3「ダイバーシティ」を深掘る
- 4「組織変革のメカニズム」を解き明かす
- 第5章 環境変化適応の本質
- 1「テクノロジーの進化と仕事」の未来を展望する
- 2「労働市場適応」のサバイバル
- 3「均衡状態に安住する」+「手段の目的化」という病