人的資本経営時代でも必要な人員・人件費管理
こんな課題はありませんか?
- (将来の)人材ポートフォリオを作成したが、つくりっぱなしになっている
- 各事業部で毎年人員・人件費計画を立て、人員数も人件費も計画内で収まっているはずだが、全体を見ている経営としては人員の“だぶつき感”がある
- 高い報酬の中途人材がどんどん入ってくるが、妥当性の判断がつかない
昨今、人的資本経営のトレンドもあり、従業員の意思を重視する施策や、処遇改善を目的とした人事制度改定をする企業が増えています。「キャリア自律施策として、従業員が自らキャリアパスを描き、好きなことを学び、希望する職務に挑戦することを推奨する」「市場の報酬データをベンチマークし、採用競争力のある高い水準まで報酬制度を引き上げる」といった取り組みがメディアで取り上げられることがあります。
これらは従業員にとって良い施策だと思いますが、経営視点では会社の目指す姿との整合性や人件費のバランスを考慮する必要があります。従業員が描いているキャリアパスや自発的に学習する領域が、経営の方向性とずれていれば会社の成長に貢献しないですし、いくら優秀な人材でも必要以上に採用・昇格させてしまっては、人材をもてあましてしまい、人件費総額を圧迫するだけになってしまいます。
人材の質・量のバランスを維持してこのような問題が起こらないようにするために、戦略的な人員・人件費の計画や管理が必要になります。
日本企業における人員・人件費計画:なりゆき要員計画(NWP)
人員・人件費計画は多くの日本企業で実施されています。よく見られるものは以下のような活動です。
①年間要員計画の作成
昨今、日本企業でもジョブ型雇用を取り入れたり、中途採用枠を広げたりと、採用方法が多様化しつつあります。しかし、大部分は新卒一括採用をしており、入社後に配属が決まるため、要員計画は新卒採用数や各配属の計画が中心となっています。現在の人員状況、過去の採用数、定年退職数、各部門からの人材需要に関する意見などを考慮して計画を作成します。
②年間人件費計画の作成
年間要員計画に基づき、年間人件費をシミュレーションします。計画作成時点における最新の給与支払いデータを、たとえばExcelに落として、定年退職・新卒採用などによる人員増減、今年度実績を参考にした年次昇給・賞与・時間外手当などの予測値、社会保険の料率改定などの情報をインプットとして、できるだけ精緻に給与総額を計算します。計算結果はコストセンターや科目単位に集計して、次年度の人件費予算として経理部門に提出します。
③人件費予実管理
新年度が始まった後、毎月の給与計算結果が会計仕訳として会計システムに連携されることで、人件費の実績情報が集まります。経理部門が予算管理の単位で予実を管理します。
このような要員計画は、人員数・人件費のなりゆき予測を精緻化する活動ですので「NWP」といいます。NWPはNariyuki Workforce Planningの略で、なりゆき要員計画を指します。なりゆき予測どおりに進捗していることを確認できればよいので、大括りの単位で予実管理されており、細かな組織単位での人員・人件費管理がされていないことが多いです。
また、NWPは予算内に収めることを目的としているため、なりゆきベースに少し余裕を持たせた計画にする傾向があります。そうすることで実績が予算内に収まりやすくなり、一見順調に予実管理ができているように見えますが、組織・人員のだぶつきやパフォーマンス向上余地に気づくことが困難です。NWPは減点主義文化と相性の良い要員計画でもあります。
まったくの無計画よりも、なりゆき予測ができているほうが良いですが、経営・ビジネスがなりゆきでは実現できない挑戦的な目標を掲げている場合、どんなに精緻ななりゆき予測をしても戦略的な貢献はできません。