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人事労務事件簿 | #38

専門業務型裁量労働制の対象業務に含まず、要件を満たさないと判断(京都地裁 平成23年10月31日)

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 今回取り上げる事案は、専門業務型裁量労働制の適用が問われたものです。厚生労働省令である労働基準法施行規則は、専門業務型裁量労働制の対象業務の1つとして「情報処理システムの分析又は設計の業務」を定めています。ポイントは、情報システム開発に携わるITエンジニアの業務が、何でも裁量労働の適用対象になるわけではない点です。対象外の業務を会社が裁量労働としてみなしてしまうと、本事案のように従業員から訴えられたとき、会社は敗訴に至ります。

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1. 事件の概要

 本件は、XがY社に対し、労働契約に基づく未払時間外手当および付加金の支払い請求、ならびに不法行為または労働契約上の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を行った事案です。

 今回はさまざまな争点から、専門業務型裁量労働制について取り上げます。

(1)当事者

 Xは、I社に在籍時、社長としてY社を立ち上げることになった当時の部長(以下「社長」)に誘われて、Y社に入社しました。

 Y社は、コンピュータシステムおよびプログラムの企画、設計、開発、販売、受託等を主な業務とする株式会社で、社長がXのほかC部長、B部長らに声をかけて、平成13年5月に立ち上げました。

(2)Y社の組織

 Y社の組織には変遷があり、平成20年9月以降は取締役会の下にSI事業推進部、ソフト事業部およびカスタマソリューション部がありました。

 Y社にとっての大口顧客は、F社、J株式会社、K株式会社の3社であり、これらで全体売上の6割程度を占めていました。

 Y社の従業員数は40人あまりで、SI事業推進部内に3社ごとに業務を担当するチームがつくられていました。

(3)XとFチーム

 Xは、大口顧客の1つであるF社を担当するFチームに属し、主任でした。

 Fチームは、F社が制作した販売管理ソフトウェアGのカスタマイズ作業を行っていました。

 F社には、ソフトウェアGのエンドユーザーである店舗から、「ポイントカードを発行できるように改修してほしい」「このような販売統計を取れるようにしてほしい」といった要望が寄せられていました。

 そこでF社は、必要に応じて基本的なシステム設計をしたうえで、簡単な指示書を作成し、Y社にカスタマイズ作業を依頼していました。

(4)専門業務型裁量労働制

 Y社は、システムエンジニアについて専門業務型裁量労働制を採用することにし、平成15年5月20日、書面による労使協定を締結しました。

 それ以降、労使協定を継続して締結していますが、平成15年5月20日付協定については労働基準監督署に届出をしたものの、それ以降は平成21年7月までは届出をしていませんでした。

 労使協定の内容はいずれも同じ内容であり、次のとおりです。

対象労働者
社内及び社外において、システムエンジニアとしてシステム開発の業務に従事するもので、会社(Y社)が指定した労働者。
専門業務型裁量労働制の原則
対象労働者に対しては、会社(Y社)は業務遂行の手段及び時間配分の決定等につき具体的な指示をしないものとする。
労働時間の取扱い
対象労働者が、所定労働日に勤務した場合は、1日8時間労働したものとみなす。

 また、Y社と労働者代表との間で、平成16年3月1日、業務遂行における健康と福祉に関する労使協定を締結しました。

(5)幹部による運営会議

 Y社は、平成16年3月から幹部による運営会議を実施しており、当初のメンバーは社長、C部長、B部長、D部長代理、E社員、Xでした。

 それ以降、現場の管理職も参加に加わることはありましたが、これらのメンバーは変わりありませんでした。

 運営会議では、各部署における問題点の改善、情報の共有、方向性の統一などを意見交換していました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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