創業期からカンパニー制をとる異色のスタートアップ
岡本勇一氏(以下、岡本) まずは簡単に御社のご紹介をお願いできますか。
大野峻典氏(以下、大野) 生成AIの領域で、次の時代の当たり前になるようなサービスをつくるべく、現在4つの事業を手がけている会社です。
岡本 創業からまだ1年ちょっとなのに、4つもですか?!
大野 はい。一般的なスタートアップでは1プロダクトを磨き上げる、いわゆる“選択と集中”がセオリーですよね。しかし、僕らは創業時から複数の事業を生み出すことにコミットしています。
岡本 その狙いは?
大野 いまは、生成AIによって本当に大きな技術革命が起きているときだと思っています。いうなればインターネット革命のタイミングのようなものです。仮にその時代にタイムマシンで戻れるとしたら「Amazonつくろうかな」「Googleもつくりたいな」といったように、もしかしたら大当たりするかもしれないアイデアがたくさん浮かぶと思うんです。そんな革命が起きている最中に1つの事業に絞り込んで残りを捨ててしまうのは、大きな機会損失になる。
実は、創業前は最初から1プロダクトで行こうと考えていたんですよ。でも、実際にプロトタイプをつくり始めて実験を重ねれば重ねるほど、逃すにはもったいないチャンスがいろいろな領域で転がっていることに気づいたんです。選択と集中で細く長く生き残ることを考えるよりも、いまこの瞬間を思いきり太く生きることにフォーカスするなら何をすべきか、というところからカンパニー制を採り、事業をつくる経営陣とお金を集めて、最初から複数の事業を立ち上げていくことに決めました。
岡本 なるほど。ちなみに4つの事業とは、具体的にどんなものですか。
大野 まず4つの事業に共通しているのは、「これまで人の“柔らかい思考や判断”が求められるために、ソフトウェアによる自動化ができなかった労働集約的なオペレーションを、AIで、もしくはAI+人間で、高い生産性をもって行えるようにする」というテーマです。そのうえで、1つ目はセールス領域、2つ目はHR領域、3つ目は動画・翻訳領域で、そして4つ目はその他の多様な領域において生成AI活用を支援するサービスを展開しています。
岡本 盛りだくさんですね。4つの事業を動かすとなると人材もそれなりに必要かと思いますが、現在の社員数は何名でしょう?
大野 いまは役員も含めてフルタイムが25名、一定以上稼働いただいているパートタイムの方を含めたコアメンバーで約40名の組織です。
岡本 すごい。約1年で40名を採用したのですか。
大野 厳密に言うと、創業前から採用活動はスタートしていたので、4ヵ月ほどフライングしていますが(笑)。なお、この40名のうち12名には、経営陣として各事業の経営を担ってもらっています。
高橋椋一氏(以下、高橋) 弊社はカンパニー制を採用していて、10人くらいのメンバーを抱えたシード期のスタートアップが4つ集まっているような組織体制(1事業=1カンパニー)になっています。
岡本 高橋さんはHR領域のカンパニーのCEOとのことですが、カンパニーにはどのような権限が与えられているのですか。
大野 各事業をスピーディに立ち上げるうえで必要と判断した権限すべてです。基本的には、大まかな方針・予算・目標感などをすり合わせながら、各カンパニーの経営陣の判断で事業や経営を進めてもらっています。特に立ち上げ期では、机上で細かいプランニングや議論をしてもあまり意味がなく、現場が課題を抱えているお客様と直接話しながら舵を切っていくことが大事なので。各カンパニーのCEOは、Algomatic全社の役員・ボードメンバーでもあり、いわゆる一般的な企業における「新規事業責任者」よりも大きな権限を持っていると思います。
高橋 「AI領域で複数の事業を立ち上げるのが勝ち筋である」という事業戦略があり、それを実現するための組織戦略としては「高い機動力で動けるカンパニー制を採用して、権限委譲することが最適だ」という考え方なので。
岡本 人材の採用や評価なども、会社共通ではなくカンパニーごとにされているのですか。
大野 はい、カンパニーごとに行っています。人事権は事業ごとのマネジメント・組織づくりに欠かせません。人事をコントロールする権限を持たずに、事業をマネジメントするのは難しいと考えています。
岡本 それだけ大きな権限を与えられるカンパニー制だからこそ、経営陣の採用がスムーズに進んできたのかもしれませんね。
大野 そうですね。大きな魅力になっているとは思います。能力的に優秀な人や野心を持つ人であれば大きな挑戦をしたいと思うでしょうし、その方に見合った環境が必要だと考えています。
とはいえ、創業期の僕らにあるものは構想だけ。「事業を生み出せる人が集まり、各領域で同時多発的に大きな事業をつくっていきましょう! そのための仲間とお金を集めていきましょう!」というコミットメントに対し、共感したりおもしろがったりしてくれた人が来てくれているように思います。