データ基盤がカギとなる、人事データ活用の“2つの切り口”
人的資本経営が企業の競争力を左右する今日、人事データの活用は避けて通れない経営課題だ。しかし、データの活用に到達するまでには「社内に散在する人事データの整備」「人事部門とIT部門の軋轢」などといった様々な課題が立ちはだかり、なかなか思うように推進できていないケースが散見される。
本講演では、エンタープライズ企業の人事部門およびIT部門の責任者として、それぞれ先頭に立って人事データ活用を推進している日揮ホールディングス(以下、日揮HD)CHROの花田琢也氏と、日清食品ホールディングス(以下、日清食品HD)CIOの成田敏博氏が、人事データ活用の現在地と未来について3つのテーマに沿って語り合った。
最初の対談テーマは「人事・人材データ活用の必要性・可能性をどう見ているか?」。対談のスタートとして、花田氏はまず人事データを大きく2つに分類する視点を提示した。
「1つは性別、年齢、国籍、履歴などの属性データで、私はこれを『スタティックデータ』と呼んでいます。これらは既に形式知化されており、基本的にはそのまま可視化することが可能です。そしてもう1つは、性格、能力、資質のように、これまで勘や経験、記憶を頼りに把握してきた暗黙知を形式知化して可視化していく『ダイナミックデータ』です」(花田氏)

花田 琢也(はなだ たくや)氏
日揮ホールディングス株式会社 専務執行役員 CHRO
1982年、日揮株式会社に入社、海外プラントPJにエンジニアとして参画。2002年にNTTグループと「トライアンフ21」を設立しCEO就任。その後、日揮アルジェリア現地法人CEO、事業開発本部長、人財・組織開発部長を経て、2018年、日揮グループのCDOに就任。2021年に日揮グローバルエンジニアリングセンタープレジデントを務め、2022年4月より現職。
また同氏は、人事データの活用が人事制度そのものに及ぼす影響や、将来的な制度変革の可能性にも言及。たとえば、現在メンバーシップ型からジョブ型の人事制度へ移行を検討する企業が増えているが、ここでいう「ジョブ」とはタスクの積み重ねであり、したがって今後、「デジタライゼーションやBPR、BPOによってタスクの量が減少していくと、ジョブも自ずとスリム化されていく」との展望を述べた。そして、やがては企業の中に存在するジョブやタスクが整理され、人事データとして分類・可視化されることで、それらを社員のスキルとマッチングさせる「スキルベースマネジメント」が可能になるという。
一方、成田氏はIT部門の責任者としての立場から、人事データ活用の前提となる“データ基盤整備”の重要性を強調する。日清食品HDでも、以前は様々なシステムにデータが散在し、組織・部署マスタや製品マスタもシステムごとにコード体系が異なっていた。当然、このままの状態ではデータを十分に活かすことはできない。
そこで同社は、まずマスタデータを正規化した上で一箇所に集約し、「データを利用する時にはここさえ見ればいい」という全社共通のデータ基盤を整備してきた。現在、日清食品グループは約1万7000人の従業員を抱える中で、適材適所でのタレントマネジメントを実現するために、新たに構築したデータ基盤をベースに人事データの整備を着々と進めているところだ。
「既にスタティックデータの統合はかなりの段階に達しており、今後はスキルやキャリア志向といったダイナミックデータの整理も進めていく予定です」(成田氏)

成田 敏博(なりた としひろ)氏
日清食品ホールディングス株式会社 執行役員・CIO(グループ情報責任者)
1999年、アクセンチュア入社。公共サービス本部にて業務プロセス改革、基幹業務システム構築・運用などに従事。2012年、株式会社ディー・エヌ・エー入社。IT戦略部長として全社システム戦略立案・企画・構築・運用全般を統括。その後、株式会社メルカリ IT戦略室長を経て、2019年12月に日清食品ホールディングスに入社。2022年4月より現職。