多くの企業でエンゲージメント向上が思うように進まない理由
近年、「従業員エンゲージメント」の重要性がますます高まっています。その背景には、人的資本開示の要請が大きく関わっており、VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)時代の到来、ミレニアル・Z世代の台頭、そしてハイブリッドワークの定着という流れも後押ししています。こうした状況下で、従業員1人ひとりが主体的に行動し、企業の目指す方向に共感し、熱量高く実践している状態、すなわち「エンゲージメントが高い状態」を実現することは、企業の競争力を維持・向上させるために欠かせません。
しかし、多くの企業でエンゲージメント向上が思うように進んでいません。その理由の1つは「エンゲージメントサーベイをうまく活用できていないこと」にあります。昨今では、エンゲージメントサーベイ(満足度調査や、従業員アンケートと呼ばれることもある)を実施する企業が大幅に増えており、たとえ従業員数が小規模であっても実施されているケースを見聞きします。しかしながら、サーベイの結果をエンゲージメント向上に直結できている企業はほんの少数であり、大多数がうまく活用できていない状態に陥っていると感じます。
ある企業の事例を紹介します。1年間に1回エンゲージメントサーベイを実施しているA社の事例です。A社は全体で数万人の大企業で、当社はそのうちの何千人という規模を所管している人事の方から相談を受けました。当該組織の数字的な傾向は毎年全社人事から共有されており、特に点数が低い「業務の仕方」「人事評価」に着目しつつ、業務効率化や、評価のフィードバックの仕方を工夫し、それなりに施策を打っていましたが、エンゲージメントの全体指標としては横ばいで、従業員もやる気にあふれているとはいえない状態でした。
実は規模が大きい企業ほど、やってしまいがちな落とし穴がここにはあります。それは「数字だけの展開」です。数万人あるいは数千人の規模の企業では、全社単位で深掘った分析は実施しますが、組織単位での分析は一部おざなりになりがちです。また、設問ごと・項目ごとの点数のみを共有しがちであり、共有された各組織のマネージャーなどは「どのように施策を打っていけばよいか分からない」、もしくは「点数の低い項目にのみ着目して、さまざまな施策を乱発してしまう」という状況によく陥ります。
各組織のマネージャーがエンゲージメントに関する知見を持ち、追加的な深掘り・分析を実施するケースもありますが、全組織が横並びで同じように分析をしているとは限らず、施策の実行度合いが組織によってばらつくという状態もよく拝見します。このような状況になると、せっかく有用なデータを持っているにもかかわらず、従業員全体のエンゲージメントを高めていくことにはつながりません。
A社は表面的に数字を閲覧し判断していた事例ですが、逆に分析のし過ぎも要注意です。そうしたB社の事例についても紹介します。
B社ではA社と同様に、年に1回のエンゲージメントサーベイを実施していました。当該企業はエンゲージメントに対する感度が高い従業員が多く、結果に対して分析を何ヵ月月も時間をかけて実施していました。たとえば、「20代×男性×A役職×組織」というような属性の掛け合わせを無数につくって傾向の違いを発見する、エンゲージメントの結果指標だけではなく、さまざまな設問を起点に、どのような相関関係になっているか洗い出す、といったことを実施していました。
結果として、担当者の知的好奇心は非常に満たされましたが施策には結び付かず、また次の年のサーベイ準備の時期が来ていました。これでは全くエンゲージメント向上にはつながりません。
このようなことにならないためには、全社で次のポイントを押さえつつ、エンゲージメント向上に向けて施策を実施していくことが大事です。
- 目的を明確にする
- 課題抽出をメインにした分析をする
- 課題・施策案を展開する
- 各組織の施策実施状況をモニタリングする
- 施策を実施し続ける