登壇者

濱野 健一郎(はまの けんいちろう)氏
株式会社ペイロール 営業部 営業企画課 マネジャー
新卒でペイロールに入社し、これまで多くの大手企業に対して給与計算領域における業務改善の提案を実施。プロダクトの一つである年末調整補助サービスではセールスマネジャーとして、各社の導入を通じてDX推進を実現。同時にマーケティング・インサイドセールス・アライアンス開拓の企画・運営を行っている。
圧倒的に多い「データ分析のステージに達していない」という悩み
濱野氏はこれまで多くの企業と会話してきた中で、「そもそもデータの整理と管理ができておらず、『分析をしたくてもそのステージに到達していない』という悩みが圧倒的に多い」と語る。つまり、データ活用の前に、まずはデータ基盤を整備しなければ、話が進まないというわけだ。
では、なぜデータ基盤の整備が進まないのか。その壁となっているのは、「データの標準化対応の遅れ」と「データガバナンスの欠如」の2つであると濱野氏は指摘する。
まずは前者について。多くの日本企業では、「システムは自社にあわせてカスタマイズするものだ」という思い込みが定着しており、自社特有の定義や独自のデータ保持を長年にわたって継続してしまった。おまけに、長年にわたって終身雇用や年功序列が当たり前に続いてきた中で、昇進ルールや給与体系にまで独自性を求めてきたことで、汎用的なシステムではデータ基盤を構築できないという問題が生じているのだ。
後者は、自社の中を見渡すと実感できるのではないか。人材開発に関するデータは教育担当者が、採用に関するデータは採用担当者が、給与情報に関するデータは給与担当者が保有するといったように、役割ごとに異なるシステムを利用することで、データが散在してしまっている。その結果、人事データはどこにも集約されず、共有もされないまま、一元的に扱うことが難しい状態が生じている。
これらの現象は、組織の役割が細分化されていることで起こりやすく、大企業であればあるほど、データ基盤整備の壁は高くなっているはずだ。この壁を乗り越えるためには、次の6つのステップでデータ分析基盤を整備するのが有効だという。
- STEP1:現場のシステム整備
- データの出力形式とID・マスタの統一を行う。給与・勤怠・評価システムの出力形式を揃え、社員IDの一貫性を確保する。
- STEP2:ETLの設計と整備
- データ抽出・変換処理の自動化を行う。抽出頻度の設計やデータ加工ルールを整理し、適切なツールを導入する。
- STEP3:クレンジングルールの定義
- データを分析できる状態に整える。欠損・異常値・表記揺れ処理の設計や、等級・役職・所属などのマスタを整備する。
- STEP4:DWH格納・構築
- 統合されたデータの安定的な蓄積・再利用を実現する。給与・評価・勤怠を社員ID単位で格納し、履歴保持を設計する。
- STEP5:BIツールでの可視化
- データの活用を見える化し、誰もが使える状態にする。Power BIなどと接続し、各種KPIを可視化する。
- STEP6:分析→施策活用までの設計
- データから気づきを得て、意思決定や施策につなげる。分析結果をもとに人事施策の改善提案を行う。
人事データ整備の第一歩は「給与データ」から踏み出そう
「STEP1のシステム整備でつまずいている企業や、データ整備の第一歩を踏み出したい企業には、給与データから整備を始めることを推奨している」と濱野氏は語る。その理由は、給与データはデータの正確性・信頼性が高く、情報連携のハブ機能も持っており、データ活用することで経営にインパクトを与えやすいからである。

「給与計算業務は数値に基づく処理が中心で、多くの企業では財務部門の一部で運用されるほど、定量的なデータ駆動型業務といえる。しかも給与データは社内規定や法令に基づいて厳密な管理とチェックがなされるため、正確性と信頼性が非常に高い。さらに、男女間の給与差など他の人事データと結びつけることで分析できる要素も多く、利益率に影響を与える情報でもあることから、給与計算はデータ整備における鍵だと考えている」(濱野氏)
とはいえ、「給与データなら月次処理でデータは溜まっているから大丈夫」と考えるのは早計だ。