※Stanford University『Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Decline in Entry-Level Jobs』
ジュニアレベルに訪れる変化
従来の新卒採用では、いわば「白紙のキャンバス」であることが美徳とされ、企業の文化や仕事の進め方を素直に吸収し、与えられた課題をそつなく解決する能力が重視されてきました。これは、先輩社員が時間をかけて定型業務や組織の暗黙知を教え込み、一人前に育てるという育成モデルが機能していたからです。
しかし、生成AIの登場は、この育成モデルの前提を根底から覆しました。議事録の作成、情報収集、データ入力といった定型業務はAIが瞬時にこなし、過去の成功体験に基づいた従来手法も、AIを活用することで抜本的な見直しが求められます。もはや、コストをかけて定型業務を教える価値は薄れ、言われたことを素直にこなすだけの人材は、AIに代替されるリスクに直面しています。
この変化は、新卒採用の終焉を意味するものではありません。そうではなく、求めるポテンシャルの尺度が変わったのです。これからの新卒者に求められるのは、上司や先輩、あるいはAIが提示した答えを鵜呑みにする「素直さ」ではなく、その前提自体を問い直す「批判的思考力」。そして、確立された手法を学ぶだけでなく、AIという新たな武器を手に、自ら学び、変化に適応し続ける「学習アジリティ」なのです。
新卒に求める「新たなポテンシャル」:採用時に見極めるべき資質・スキル
それでは、新卒採用では、どのような資質やスキルを見極めるべきなのでしょうか。私たちは、以下の3つが新たなポテンシャルの核になると考えています。
1批判的思考力(クリティカルシンキング)
AIが生成した情報や、社内に存在する「当たり前」を無条件に受け入れるのではなく、「本当にそうか?」「なぜそう言えるのか?」と多角的に問い、物事の妥当性を吟味する力です。この思考のOSは、一朝一夕には身に付きません。その源泉となるのが、特定の専門知識ではなく、哲学、歴史、芸術、数学、自然科学、社会科学といったリベラルアーツの素養です[1]。多様な学問領域に触れることで培われた多角的な視点こそが、AI時代に新たな問いを立て、イノベーションを生み出すための土台となります。
注
[1]: 国際基督教大学『リベラルアーツの歴史』
2学習アジリティ(Learning Agility)
未知の状況や新しい経験から迅速に学び、その学びを応用して成果を出す意欲と能力を指します。特定のプログラミング言語やツールのスキルは、数年で陳腐化する可能性があります。しかし、学習アジリティの高い人材は、変化を脅威ではなく機会と捉え、自らを常にアップデートし続けることができます。
残念ながら、日米の大学生の学習時間を比較した調査では、日本の学生の学習時間が際立って短いというデータがあります。また、社会人になっても自己啓発を行わない人の割合が諸外国に比べて高いという調査結果もあり、これは根深い課題です[2]。だからこそ、周囲に流されず、在学中から主体的に学び続けた経験を持つ学生は極めて希少価値が高く、企業の未来を託すに値する人材と言えるでしょう。
注
[2]: パーソル総合研究所 シンクタンク本部『グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)』
3基礎的なAIリテラシー
これは、かつてブームとなったような、手続き的な処理を行うプログラミング能力を指すのではありません。AIがどのように機能し、何が得意で何が不得意か、そして活用に伴う倫理的な課題は何かを理解する基本的な素養です。このリテラシーがあって初めて、AIを効果的かつ責任ある形で活用するスタートラインに立てるのです。
以上のように、生成AIの登場によって新卒採用に求められる基準は、「素直さと課題解決能力」から「批判的思考力と学習アジリティ」へと大きく変化しつつあります。
新卒採用で求められる人材像の変化
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