新卒採用における新たなポテンシャルを見極める問い
求める人材像が変化した以上、それを見極めるための採用手法もアップデートしなければなりません。従来の面接や書類選考だけでは、新たな能力を正確に評価することは困難です。
では、私たちは新たに求められる人材をどのようにして見極めればよいのでしょうか。それには、以下のような3つの方法が挙げられます。「評価の勘所」を含めて紹介しましょう。
1批判的思考力を測る
正解のない問いを起点とした「哲学的対話」が有効です。GoogleやAppleのような先進企業では「企業内哲学者」を置く動きがあり、日本でも電通などの先進企業が組織開発に哲学対話を取り入れています[3]。面接では、「企業は従業員の幸福と業績のどちらを優先すべきか?」といったビジネスにおけるジレンマを問い、結論ではなく思考のプロセスを評価します。
AIが生成したような模範解答ではなく、問いの前提を疑い、多角的な視点(従業員、株主、社会など)から考察し、自身の価値観に基づいて論理を構築できているかに注目します。
たとえば、「なぜその問いが重要だと思うか」「他の立場から見るとどう考えられるか」といった質問や、グループディスカッションで他者の意見にどう反応するかを観察することで、思考の柔軟性や広がりを具体的に評価できます。回答に詰まっても、対話を通じて考えを深めようとする姿勢自体が評価に値します。
注
[3]: ドゥ・ソリューションズ『哲学対話とは?ビジネスにもたらす効果や企業導入事例を解説』
2学習アジリティを測る
「失敗経験から何を学び、どう活かしたか?」という問いは定番ですが、さらに深掘りします。「卒業論文やゼミで、先行研究をどこまで調べ、そのうえでどのような新しい問いを自身で設定したか?」と聞くことで、受動的な学習ではなく、主体的な探求心の深さを測ることができます。
単なる事実の羅列ではなく、なぜそのテーマを選んだのか(動機)、どのような壁にぶつかり、どう乗り越えたのか(試行錯誤のプロセス)、その経験を通じて自身の何が変わったのか(内省)まで具体的に語れるかを見極めます。
たとえば、学生が「卒業論文でデータ不足に直面したが、追加調査を行い仮説を再設定した」と答えた場合、「そのとき、どのような情報源や方法を使って追加調査を進めたか?」「仮説を再設定する際、どんな点に最も悩んだか?」「その経験を通じて、今後の学び方や課題への向き合い方にどんな変化があったか?」といった質問を投げかけることで、具体的な行動や思考のプロセス、内省の深さをさらに引き出すことができます。
3AI拡張型ゲーム
採用選考にゲーミフィケーションを取り入れる動きも出てきています[4]。AIツールの利用を前提としたゲーム形式の課題を与え、AIの出力をどう吟味し、戦略的な意思決定に繋げるかを評価します。
ゲームのスコアだけでなく、AIへの指示(プロンプト)の質、AIの提案に対する批判的な検討、そして最終的な意思決定のプロセスを観察します。AIを鵜呑みにせず、あくまでツールとして使いこなせているかがポイントです。また、AIを使う目的や限界を理解し、状況に応じて最適な使い方を選択できているかも重要な観点です。
たとえば、AIの出力を「この結果はどの前提に基づいて導かれているのか」「別のアプローチを試すとどう変わるか」といった検証を自ら行い、AIの補助を受けながらも最終判断を自分の思考に立脚させている学生は、テクノロジーを主体的に活用できる人材と評価できます。
注
[4]: The Talent Games『How to Optimize Hiring Process with Gamified Assessments in 2025』
新卒採用手法のアップデート
| 評価対象 | 評価の勘所 | 
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今回は、生成AIの進化を契機とした新卒採用のパラダイムシフトについて、従来型の「素直さと課題解決能力」から、「批判的思考力」と「学習アジリティ」へと求められる資質が大きく転換している現状を整理しました。AIによる定型業務の自動化が進む中、企業が持続的な競争優位を確立するためには、与えられた枠組みにとらわれず、自ら問いを立てて学び続ける人材の発掘・育成が不可欠となっています。
また、こうした人材像の変化に対応するため、採用手法も従来の面接や書類選考から、哲学的対話など、より本質的なポテンシャルを可視化するアプローチへのアップデートが求められています。
次回は、中途採用における「業務遂行の即戦力」から「業務変革の即戦力」へのシフトを中心に、AI時代における人材要件の再定義と評価手法の進化を考察します。

              
              
              
              
              
              
              
              
              
              
                  
                  
                  
                
                  
                
                  
                
                                            
                                        
                                            
                                        
                                            
                                        
                                            
                                        
                    