「アウトソーシング」がデータ活用への近道
データが「ただ存在する」のと、「活用できる状態になっている」のとでは、大きな違いがある。
「自分たちで活用できる状態まで持っていくのは大変だ」「そもそも活用可能なデータとはどんなものなのかもよく分からない」という企業に対して濱野氏が勧めるのが、給与データのアウトソーシング管理という選択肢である。
アウトソーシングは、初期整備に多少のリソースが必要であるものの、実務処理に加えてマスター整備やルール設計など、一連の運用が仕組み化できるほか、給与計算以外の他領域との連携も含めた人事データ基盤を継続的に進化させやすいメリットもある。また、データ基盤のルールは、一度決めたら変更するのはなかなか難しいため、自社だけでなく第三者の目線も取り入れた設計にしておくほうが、持続可能性が高いともいえる。

なぜアウトソーシングを導入すればデータ整備が進むのか。さらに詳しく見ていこう。
濱野氏は、その理由として次の3つを挙げた。
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- マスタ統一と情報整理の統制
- BPOベンダーは統一された所属や役職の定義を要求する。給与処理の精度向上のため、ばらつきが炙り出される。
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- 属人業務の形式知化
- 「Aさんしか知らないExcelマクロ」が仕様書や設計書に再構築される。データ構造が明確になり、可視化も進む。
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- 受け渡しと連携の標準化
- 給与データの形式やスケジュール、責任範囲が明確化される。勤怠・評価など他システムとの連携体制も整備される。
給与計算業務は特定の担当者に依存すると、ブラックボックス化しやすく、その担当者が離職すると再現が困難になるリスクがある。しかし、アウトソーシングの導入により、業務仕様の標準化と可視化が促進されるため、こうしたリスクを低減できる。
このような「データ整備の促進」のほかに、アウトソーシングにはもう1つ「リソースの最適化」というメリットがある。毎月発生する煩雑な計算や確認業務を外部に委ねることで、人事部門はより戦略的な業務に注力できる時間を確保できるようになるからだ。
データ基盤整備とともに、データ分析スキルの獲得を
「そもそも人事部門は定型業務の割合が非常に高く、多様化する働き方への対応やリスキリングにあてる時間の確保が難しい現状がある。せっかくデータの整備ができたとしても、それを分析できる人事スタッフがいなければ、本来の価値を引き出せない」(濱野氏)
一方で、人事データ活用において「人事スタッフの分析・活用するスキルが足りない」ことが最も大きな課題だとする調査もある。濱野氏は、“データドリブン人事”になるためのスキルステップとして次の5つを挙げた。
- ピボット・関数・グラフ作成ができる「Excelマスター」
- 人事KPIの種類と意味を理解して指標をつくれる「KPI理解・設計」
- Looker StudioやPower BIを使える「BIツールの習得」
- パターンを見つけて仮説を立てられる「分析思考」
- 相関などの基本的な統計分析ができる「統計・Python」
これらのスキルは一見ハードルが高く見えるかもしれないが、実は、時間をかけて反復練習することで、確実に獲得できるスキルでもあるという。
「給与計算業務のような定型的なオペレーション業務は、アウトソーシングで効率化できる。そこで余った時間を、戦略企画やデータ活用、もしくはそのスキル習得のための時間にあてることで、経営に貢献できる筋肉質な人事体制を構築することが可能だ」と濱野氏は強調した。