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ITエンジニアに選ばれる企業になる「採用競争力」を生み出す考え方とは?

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 ITエンジニアの採用が全然うまくいかない、これ以上何をしたらいいのか。こうなる前に意識しておきたいのが、ITエンジニアの求人倍率は13倍を超えており、人材獲得には他社との競争を勝ち抜く「採用競争力」が不可欠だということです。今回は書籍『ITエンジニア採用のための戦略・ノウハウがわかる本』(翔泳社)から、採用競争力を生み出すための考え方を紹介します。

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 本記事は『ITエンジニア採用のための戦略・ノウハウがわかる本 計画・募集活動から選考・クロージングまで』(著者:中島佑悟/高濱隆輔/千田和央)の「第1章 エンジニア採用に必要な考え方」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。

競争に勝たなければ採用は成功しない

依然として厳しい採用競争

 昨今、多くの職種で激しい採用競争が行われていますが、その中でも特に熾烈なのがエンジニア職です。エンジニア職の求人倍率はこの数年間10倍前後で推移しており、多くの企業が人材獲得に苦戦しています。

 パンデミックの影響で一時的に競争が緩やかになった時期もありますが、その際にも6倍前後の求人倍率を保っており、2024年12月時点での求人倍率は12.85倍となっています(転職・求人dodaが発表している「転職求人倍率レポート(データ)」(2024 年12月19日)より、「ITエンジニア(IT・通信)」の転職求人倍率の数値を参照)。

 求人倍率12.85倍という数字も非常に激しい競争を物語っていますが、この数字はあくまでもエンジニア職全体をならしたものなので、人気のあるポジションや条件を掛け合わせることでさらに倍率は高くなります

 たとえば、「エンジニアリングマネージャー」や「テックリード」などの職種は特に人気ですし、英語をはじめとした語学スキルを求める場合や、特定の業界に精通している人材を採用したいときには、さらに厳しい競争を想定しなければなりません。

 実際の採用活動ではさまざまな条件が重なり、知らない間に何十倍もの採用競争の中で戦っていることもあります。倍率がそれほど高くないジュニアクラスのエンジニアを採用できた際に、「求人倍率が13倍もあるのにエンジニアを採用できた。わが社にはそれだけの採用力がある!」などと勘違いしてしまい、人気のある人材でも同程度の競争だと見積もってしまうとうまくいかないので注意が必要です。

 エンジニア採用は依然として厳しい採用競争を戦わなければならないことを意識してください。

競争具合を見誤らない

 求人倍率12.85倍、そして人気のあるポジションや条件次第ではさらに激しい競争を勝ち抜かなければならないことを述べましたが、次のような勘違いから競争を過小評価してしまうケースが多く見られます。

 競争を見誤ると、採用に必要な費用や労力を過少に見積もり、結果として採用が長期化し成功に至らないこともあります。そのため、よくある勘違いに陥らないよう注意しなければなりません。

選考のみを担当することで起こる勘違い

 多くの企業で募集活動(求人掲載やエージェント活用、スカウトなど)と選考活動(書類選考やスキルテストなど)の担当者は分かれていますが、このような場合に図1のように選考活動の担当者は競争具合を甘く見積もってしまうことがあります。

図1 選考のみを担当することで起こる勘違い
図1 選考のみを担当することで起こる勘違い

 募集活動の担当者は自社に関心のない求職者に興味を持ってもらうことが主な活動であり、何十・何百人もの求職者から断られるため競争の激しさを肌で感じます。一方で、選考活動の担当者は何もしなくても応募者との面接が設定され、応募者の大半は既に自社に興味を持っているので競争の激しさを実感しづらいです。

 結果として、「もっと優秀な人を連れてきて」「急いで採用したいから早く候補者を連れてきて」「採用費用はかけなくていいだろう」というように、競争があることを考慮しない要望や判断をしてしまうことがあります。このような勘違いには注意が必要です。

過去の成功体験による勘違い

 創業当初に自ら採用を行っていた代表が「私が自分で採用を行っていたときにはうまくいっていたのに、現場に任せたらそうではなくなった」と感じることがあります。これにはいくつかの勘違いが含まれています。

 まずは時代による倍率の変化を考慮しなければなりません。エンジニア職も過去には採用競争が緩やかだった時代もあり、そのときの成功体験を引きずっていることがあります。

 また、採用手法によって競争具合の感じ方にも差があります。たとえば、スカウトよりもリファラル採用のほうが競争具合が緩やかな傾向があり、創業期にリファラル採用で成功体験を積んでしまうと、その感覚を引きずってしまうことがあります。

 したがって、時代・状況などの差を考慮し、過去の成功体験に捉われることなく現状を正しく見つめることが大切です。

途中成果による勘違い

 求職者が入社できる企業は1社だとしても、一般的には応募は5社から20社程度にできますし、その中の1社から3社程度から内定をもらえます。そのため、企業側は応募を1件獲得できたからといって「求人倍率12.85倍を勝ち抜いた」ことにはならず、途中成果が出たとしても最終的に求職者が入社するまで気を緩めてはなりません。

 しかし、応募が数件集まるとあたかも採用競争を勝ち抜いたと勘違いしてしまいがちです。「一定数の応募者がいるから大丈夫だろう」「内定を2人に出しておけばどちらかは入社してくれるだろう」と途中成果によって安易に気を抜いてしまうことがあるので注意が必要です。

 これらの勘違いは特に採用現場から遠くにいる人ほど起こりがちなため、現場をよく知る採用担当者は、関係者がこのような勘違いに陥っていないか確認してください

 また採用担当者は、関係者が競争具合を甘く見積もっている場合には、「なぜわかってくれないんだ」と嘆くだけでなく、どのような勘違いが起こっているのかを整理して対策を行う必要があります

「相性」や「運」で片付けない

 ここまで「競争」を正しく理解しなければならないことを述べてきましたが、そもそも採用の成果を「競争」という力学ではなく、「相性」や「運」で決まるものと考えていることがあります。たとえば、「自社はオンリーワンだから広く声をかければ魅力を感じてくれる人がきっといる」「前回はうまくいったから今回もきっと大丈夫だろう」といった考えです。

 しかし、「競争」という力学に向き合わなければ、採用がうまくいかないときに「競争に負けた」と捉えられず、「相性が悪かった」「運が悪かった」の一言で片付けてしまいます。これではいつまでも本質的な問題が改善できません。採用は恋愛にたとえられることがありますが、それに当てはめるならば「相性が良い相手さえ現れてくれれば……」「運さえ良ければ……」と考えてしまい、自分を磨く努力を怠るようなものです。

 このような「相性」や「運」に頼った採用活動では、スカウトやエージェントへの紹介依頼を増やし、アプローチできる人が枯渇してくればサービスや媒体を入れ替えるといった取り組みに終始してしまいがちです。結果、本質的でない活動を続け、多くの費用や時間、労力を無駄にしてしまいます。

 もちろん採用にはそうした側面も少なからずあります。しかし、相性を「低い報酬でもいいと言ってくれる人」「自ら仕事を見つけて動いてくれる人」のように、都合の良い人を探す言い訳に使っていることも多いです。

 また、昨今は企業から発信する情報も増え、採用サービスのマッチングシステムの精度も向上しているため、「運頼み」は通用せず、本質的に魅力のある企業でなければ採用は成功しづらくなっています。

 採用ができるかどうかを「相性」や「運」で片付ける企業や担当者がいる一方で、優れた戦略と多大な努力によって成功を勝ち取る企業や担当者がいることを意識してください。

採用市場や競合などの“社外”に焦点を当てる

採用競争力は相対的に決まる

 ここまでエンジニア採用では採用競争を理解して向き合わなければならないことを述べてきましたが、熾烈な競争が行われる中で採用が成功するかどうかはさまざまな要素によって決まります。たとえば、報酬、会社の特徴や知名度、面接官の印象、スカウト文面の良し悪しなどです。これらをひとまとめにして、採用競争力と呼ぶことにします。

 採用競争力は絶対的なものではなく相対的に決まります。言い換えれば、自社の魅力や価値は比較される企業の影響を受けます。たとえば報酬を600万円とし、自社の特徴を「急成長のスタートアップ」だと訴求し、特にスカウト文面の強化に力を入れて採用活動をしたとして、このような採用活動によって採用が成功するかどうかは当然ながら横に並ぶ企業によって決まります。

 たとえば、求職者が併願して応募をしている企業や、人材エージェントが求職者に自社とあわせて紹介する企業がどこかによって自社の特徴や魅力は変わります。もし横に並べられる企業が600万円以上を提示する場合には報酬の魅力は低くなり、求職者がスタートアップ企業を多く併願している場合には「急成長のスタートアップ」という特徴は見慣れたものになります。また、スカウト文面をいくら工夫しても他社も同じことをしていれば強い採用競争力にはなりません。

 このように自社の魅力や強みなどの採用競争力は、“外”に目を向けてはじめてその良し悪しが判断できます。「このサービスを使えば採用できる」「この方法で採用できる」といった都合の良いものはなく、ポジションごとに相対的な物差しを駆使して自社の採用活動を見つめる必要があります。

“内”ではなく“外”に意思決定のよりどころを置く

 採用競争力は相対的に決まるので、採用活動を行う際には何をするにしても採用市場や採用競合などの“外”に焦点を当てなければなりません。

 たとえば、報酬や訴求を考える際には相場感や採用競合企業がどのような金額にしているのか、どのような訴求をしているのかといった情報を鑑みなければなりませんが、採用に苦戦している企業ではこのような社外への意識が低く、社内にばかり目を向けがちです。自分たちの感覚だけで活動していたり、社外の情報は得ながらも、自社の都合を優先させていたりすることが非常に多いです。

 たとえば、本来は報酬の相場が800万円の人材に対し、「社内のAさんが600万円だからそのくらいで採用できるだろう」「他の社員とのバランスもあるのでこれ以上は上げられない」といった決め方で報酬を決めてしまったり、「自分たちができる限りの努力をしているから結果が出るだろう」「去年より頑張ったんだから1年前よりも多く採用できるだろう」などと自社内の基準で考えてしまったりします。

 もちろん自社の事情は考慮しなければなりませんが、求職者側からしてみれば候補となる企業の事情など知ったことではなく、より魅力的な企業のほうを選ぶだけです。採用を成功させるという観点では採用市場や採用競合を無視することはできず、そのような“外”を意思決定のよりどころにしなければ「頑張ってはいるけれど、採用は成功しない」という状況からは抜け出せません。

 採用市場や競合企業などに目を向けないのは目隠しをしてレースを走るようなもので、これでは効果的な取り組みができずに労力や費用、時間などのリソースを無駄にするだけです。その結果、「1年以上も採用ができていない」「多くの費用をかけているのに採用ができない」といった状態に陥り、採用担当者も会社も採用業務を行えば行うほど疲弊していきます。

 競争環境において採用が成功しない企業が出てくることは避けられませんが、努力が正しい方向に向いていないのであれば、それは無駄な労力をかけているだけです。採用市場を優先できないのであれば、前提に立ち戻って求める人材の要件を変えるか、そもそも採用ではなく社内異動や業務委託、外注などで賄い、新規採用はしないと勇断することもひとつのあり方です。これも採用業務のひとつといっていいでしょう。

 また、“外”に目が向いていない状況は、採用担当者よりも採用に協力するエンジニアや経営者に起こりがちです。採用活動ではエンジニアや経営者の協力が不可欠なので、「エンジニアや経営者がわかってくれない」とただ嘆くのではなく、彼らの意識を変えにいくことも大切です。

採用業務を広く捉え直すことが必要

採用プロセスは、より広く細かく目を配らなければならない

 競争に向き合い“内”ではなく“外”に目を向けてみると、自社が行わなければならないことが見えてきます。

 企業は求職者を採用するために、図2のように自社を知ってもらい、応募をしてもらい、選考を受け続けてもらい、入社を決めてもらうといった一連の採用プロセスを経ることになりますが、採用プロセスにおける注力点は競争具合によって違いが現れます。

 図2のようにグレー部分を競争が緩やかな状況・ポジションでの注力点とし、青色部分を競争が激しい状況・ポジションで追加される注力点とすれば、競争が激しくなるほど注力点は広範囲に置かれるようになります。

図2 採用プロセスの注力点の広がり
図2 採用プロセスの注力点の広がり

 競争が緩やかな状況・ポジションでは受け身の姿勢でも認知や応募を得ることができ、その応募者を選考し内定を打診するといった採用プロセスに注力することで採用ができます。

 一方、競争が激しい状況・ポジションでは、上記のプロセスの前後や間に注力するプロセスを設けなければならなくなります。

 競争が激しくなるほど募集をかけただけでは求職者が集まらない状況になり、他社よりも早いタイミングである、転職意欲の潜在期から自社を知ってもらおうとする企業が増えています。認知やイメージの形成のためにイベントの登壇やスポンサードなどに取り組んだり、採用サービスや協会などが実施する第三者の調査(日本CTO協会が実施する「Developer eXperience AWARD2」など)でランクインを狙ったり、各メディアで取り上げられることを狙ったりといったPR活動のような取り組みも行われています。

 また、転職意欲が顕在化するタイミングまで自社を覚えておいてもらうために、ファン化やナーチャリングの取り組みとしてSNSでの発信を強化したり、タレントプールを駆使して継続的な接点を模索したり、コミュニティで関係性を徐々に深めようとする取り組みも行われています。

 転職意欲が顕在化してからは多くの企業が求職者にアプローチしますが、求職者が応募できる企業数には限りがあるので、どの企業を受けるか比較検討することになります。そのため、求職者が比較検討しやすいようカジュアル面談に力を入れたり、エンジニア用に特設したリクルーティングページで開発や組織に関するさまざまな情報を掲載したり、食事会を開いて社内の雰囲気を知ってもらう取り組みも盛んです。

 応募を獲得した後も気を抜くことはできません。複数の会社の選考を受けている求職者は少しでも企業に不信感を覚えれば選考の途中で辞退してしまいます。そのため選考を継続して受けてもらえるように注意を払う必要があり、横暴な態度や準備不足で選考体験が悪くならないように注意したり、選考の期間や回数を少なくして求職者の負担を減らしたり、選考の合間にも社員との交流会を設けたりしながら選考からの離脱を防ごうとする企業も増えています。

 さらには、内定を辞退した求職者や入社はしたものの退職する人にも目を配る企業が増えています。昨今では転職のサイクルも早くなっており、数年のリードタイムで次回の転職先を考える求職者も増えているため、そこに対するアプローチとしてタレントプールで管理して継続的に連絡を取ったり、退職した社員を改めて採用するアルムナイ採用に力を入れたりする企業もあります。

 ここまで述べた内容は一例に過ぎませんが、重要なのは採用競争が激しくなるほど求職者と企業間で発生する採用プロセスをより広く細かく捉え、それぞれに対策をしなければならないことです。

 マーケティングや商品開発の領域では、「態度(行動)変容モデル」と呼ばれるフレームワークを用いて、認知から購買、その後の情報共有といった顧客の行動/心理変容を想定することがありますが、ここまで述べてきた内容は「求職者の態度(行動)変容モデル」を想定し、より広く細かく捉えるべきだとも言い換えられます。

社内プロセスは、より前工程に立ち戻り改善しなければならない

 採用を成功させるためには、求職者と企業間の採用プロセスだけでなく、採用活動をアウトプットするための社内プロセスについても注力点を見直さなければなりません。社内プロセスとは、具体的に採用したい人材を決め、報酬や求人タイトルなどを決め、予算やリソース配分を決め、利用するサービスなどを決め、実際に求職者と折衝するといった一連の社内の流れです。

 図3のようにグレー色部分を競争が緩やかな状況・ポジションでの注力点とし、青色部分を競争が激しい状況・ポジションで追加される注力点とすれば、競争が激しくなるほどこの注力点は前工程にも広がりを見せます。

図3 社内プロセスの注力点の広がり
図3 社内プロセスの注力点の広がり

 競争が緩やかな状況・ポジションでは、求人タイトルの変更やスカウト文面の調整といった施策の運用に関する工夫や、人材エージェントやリファラル、スカウトなどの採用チャネルの設計、適した採用サービスをより多く利用するといった施策の設計・選定の工夫などが主な注力点となります。

 一方で、競争が激しい状況・ポジションでは上記のプロセスだけでなく、前工程に立ち戻った工夫や改善を行わなければならなくなります。

 競争が激しくなるほど、求人タイトルの変更やスカウト文面の調整といった工夫はどの企業も行うようになり、違いが出なくなります。また複数のサービスの利用も多くの企業が行っており、採用競争力が小さくなります。このような場合には他社よりも前のプロセスから工夫・改善をしようとする力が働きます。

 求人票やスカウトには「業務内容」や「採用背景」などさまざまな情報が掲載されますが、それらについてより求職者に伝わりやすいように具体的に書いたり、「入社したら何が得られるのか」といったアピールポイントや魅力を言語化することに時間を割いたりと、情報の設計に力を入れる企業が増えています。

 また、そもそも人物像やスキル要件が不明瞭であれば効果的な採用活動ができないので、関係者で何度も集まり要件の明瞭化に労力を割く企業も増えています。

 このような採用活動にはお金も労力もかかるので、それらの大小も採用競争力になります。そのため社内でより大きな予算を調達したり、関係者を巻き込んで人的なリソースを調達したりする動きも盛んです。

 さらには特徴や魅力を新しく“創ろう”とする動きも見られます。先に述べた情報の設計は現状の事業や組織を“いかにうまく伝えるか” を工夫するものですが、そもそも根本的に特徴や魅力がなければどれだけうまく伝えようとしても限界があります。

 そのため、採用競争に勝つために特徴や魅力を新しく生み出そうとする企業も見られます。たとえば、「週休3日制」といった特徴的な制度を設けたり、エンジニアだけ報酬テーブルを切り分けることで提示できる報酬を高めたりといった取り組みです。

 上記のような採用活動は、それを支える管理業務や業務基盤が強固でなければなりません。「あれもやったほうがいい、これもやりたい」と考えもなしに施策に取り組んだり、関係者が好き勝手な行動をするようなオペレーションであったりすれば、いくら予算や人的リソースを社内でかき集めても霧散してしまい競争力にはなりません。

 そのため採用計画を立て、データをもとに振り返りを行い、本質的な問題点を見極めようとしたり、オペレーションを徹底的に磨き上げたりする企業もあります。具体的にはATSツール(Applicant Tracking Systemの略。採用管理システムとも呼ばれ、応募者情報や選考情報などを管理するツール)を導入することはもちろん、それを軸にデータドリブンな管理体制を構築したり、各業務のテンプレート化や選考時の有用な情報が抜け漏れなくデータ化されるようにオペレーションを組んだりといった内容です。

 このような業務は求職者に対して直接影響を与えるものではないためおろそかにされがちですが、間接的な採用競争力になるものなので工夫・改善を行う企業が増えています。

 足腰の強い業務体制がなければ、ここまでに述べた業務は遂行できないので、採用体制や社内環境を強化しようという企業も見られます。たとえば、エンジニア採用の専任担当者や専任チームを設置することはもちろん、現場メンバーも巻き込んだ採用手法(スクラム採用など)を取り入れたり、ハイヤリングマネージャーの制度を取り入れて現場が積極的に採用に協力する仕組みを作ったりする企業も多いです。

 また、社内環境では、社外から優秀なCHRO(Chief Human Resource Officer・最高人事責任者)を迎え入れ経営と採用がより密に連携を図れる ようにしたり、人事部の配下にあった採用部門を代表直下にしてスピード感を持って意思決定ができる組織体制にしたりといった取り組みも見られます。

 ここまで述べた内容はあくまでも一例ですが、採用競争が激しくなるほど採用活動をアウトプットするための社内プロセスについても、前工程に立ち戻り改善や工夫をしなければなりません

 マーケティングや事業開発などの領域では、「サプライチェーン(供給連鎖)」や「バリューチェーン(価値連鎖)」と呼ばれるフレームワークを用いて、商品の「材料の調達 → 商品の生産 → 物流 → 販売」といった一連の流れの中でどのように顧客に商品や価値を届けるのかを整理・分析することがありますが、採用活動の社内の流れを「採用のサプライチェーン」に見立てると、競争が激しくなるほど採用のサプライチェーンの下流工程だけを改善や工夫するだけでは勝つことが難しくなり、上流工程から改善や工夫を行うことが求められているといえます。

 エンジニア採用は小手先ではなく、初期的・根本的な社内の動きから競争力を高めなければ競争に勝てないということです。

自らの手で「採用競争力」を生み出さなければならない

言いづらいこと、変えづらいことにも立ち向かう

 ここまでに述べた内容について、「そんなことはできない」と思われた方も多いのではないでしょうか。選考プロセスに対しては言いづらいと感じたり、報酬や予算などを変えることに対しては変えられないものだと思われていたりするのではないかと思います。

 しかし、激しい採用競争が行われている中で採用を成功させている企業においては、上記で述べたような取り組みが実際に行われており、言いづらいこと、変えづらいことにも立ち向かわなければ採用を成功に導くことはできません。

 そうしたことから目をそらし、「今の条件では採用できないと思っているけれど、現場は理解してくれないし、仕方がないからスカウトを送り続ける」といったように、できる範囲のことばかりに労力や時間を割いていても、「はじめに」で述べた「頑張っているのに成果が出ない」状態に陥ってもどかしさに苦しむだけです。

 エンジニア採用は12.85倍の激しい人材獲得競争が行われているのですから、努力や工夫なくして採用の成功はありえません。楽に、安く、早く採用できるといった銀の弾丸はありませんので、困難さやつらさを乗り越える必要があります。それならば、言いづらいこと、変えづらいことから逃げずに立ち向かい、意味のある健全な方向にエネルギーを向けてみてください。きっと成果に近づく手応えを感じてもらえるはずです。

自らの手で「採用競争力」を生み出す

 採用は手法やTipsに意識が向きがちであり、「今の自社の魅力でも採用できる人を探し、見つける」という動きになってしまいがちですが、エンジニア採用では「採用できる会社にしていく」という動きが重要になります。

 仮に組織に魅力がないにもかかわらず優秀な人材を求めているのであれば、「今の魅力のない組織でも、奇跡的に魅力に感じてくれる人を頑張って探す」といった考えをするのではなく、「採用したい人が入社したくなるような魅力のある組織を作る」という考えを持たなければなりません。

 採用のメガネを通して自社を評価し、採用の観点から事業や組織に意見を言い、働きかけることも採用担当者には求められています。

 エンジニア採用に向き合うマインドセットとして、自らの手で「採用競争力」を生み出す意識を強く持ってください

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著者:中島佑悟、高濱隆輔、千田和央
発売日:2025年2月25日(火)
定価:2,508円(本体2,280円+税10%)

本書について

本書では、ITエンジニアの採用に求められる採用業務を構造的に整理し、「競争を勝ち抜くための戦略的な採用業務」を解説します。

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