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人事労務事件簿 | #57

番組制作の労働時間を算定可能とし事業場外みなし労働時間制適用を認めず(東京地裁 令和5年6月29日)

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2. 裁判所の判断

(1)事業場労働時間みなし制度について

 労基法38条の2は、事業場外の労働で、その労働態様のため、使用者が労働時間を十分把握できるほど使用者の具体的な指揮監督を及ぼし得ない場合について、使用者の労働時間の把握が困難で実労働時間の算定に支障が生ずることから、実際の労働時間にできるだけ近づけた便宜的な算定方法を定め、その限りにおいて、労基法上使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除する制度である。

 そうすると、労基法38条の2「労働時間を算定し難いとき」とは、事業場外の労働であるうえ、その労働態様のため、使用者が労働時間を十分把握できるほど使用者の具体的な指揮監督を及ぼし得ない場合をいうものと解される。

(2)Xについて

①番組制作について

 番組制作は、企画、取材、撮影および編集の過程があるところ、企画の段階および取材の初期の段階では、どのような取材対象者をどの程度取材することになるか、どのような調査を行う必要があるかをあらかじめ決め難い場合があると認められる。

 また、Xは、制作業務を1人で担当しており、企画、取材および撮影は、Y社の事業場外での労働が中心であり、編集についても事業場外の編集所で行う場合が多く、全体として、おおむね直行・直帰により行われていたものであり、上司などの管理者の目視できる場所で作業が行われることは少なかった。

 他方で、企画および取材における初期の段階でも、管理者が、Xから、その日行った作業内容の結果を報告させることは可能であったといえる。

 さらに、1つの番組は2~8ヵ月といった比較的長い時間をかけて制作されるものであり、いったん企画書が採用された後は、企画書によって、取材および撮影の対象、内容、方法が一定範囲に定まるものであると認められる。

 企画書が採用された後は、上司において、企画書などに基づき、Xから報告された日々の作業内容に基づいて進捗を確認し、指揮命令を行うことができるといえる。

②勤怠管理システムについて

 始業・終業時刻については、携帯できる端末で、どの場所からでも入力できる勤怠管理のシステム(本件システム)で報告することとされている。

 同システムには、ボタン操作により即時記録される始業・終業時刻はもちろん、始業・終業時刻を手動で入力編集した時刻も逐一記録されるものであった。

 そのため、上司において、始業・終業時刻を確認したり、入力状況を確認したりすることができた。

 本件システムの備考欄によって取材先が報告されることがあるほか、首都圏以外は出張届で事前に届け出がされ、首都圏内でも交通費の申請がされ、上司において、取材場所の確認が可能であった。

③撮影作業の確認等について

 また、Xが撮影した全ての映像には、撮影時刻および撮影対象が逐一記録されていた。このことから、撮影の作業の裏付け確認を行うことも可能であった。

 放送局および取材先との会合費は、月ごとに領収証とともに報告がされていた。これにより、Xの報告した作業内容の真実性を確認することもできた。

 また、映像の編集を行う編集所からは、番組ごとの利用日および時間帯がY社に報告されていたから、これにより、Xの編集作業時間を確認することが可能であった。

 さらに、Xは、Y社から社用の携帯電話を所持するよう指示されており、Y社からいつでも呼び出し確認ができる状態となっていた。

④労基法38条の2「労働時間を算定し難い場合」とは認めず

 以上のことからすれば、Xの制作業務は、おおむね事業場外の労働であったといえるが、Xの上司において、上記の方法で、Xの労働時間を把握するため具体的な指揮監督を及ぼすことが可能なものであったといえる。

 したがって、制作業務は、その労働態様が、使用者が労働時間を十分把握できるほど使用者の具体的な指揮監督を及ぼし得ない場合であったとは認められず、労基法38条の2「労働時間を算定し難い場合」とはいえない。

⑤Y社の主張を認めず

 Y社は、Xが、Y社が当初指示したとおり、始業・終業の都度、本件システムのボタンを打刻する方法で報告を行わず、半月または1ヵ月分をまとめて入力し、その後修正をすることを繰り返しており、入力内容の正確性を担保する手段がなかったため、労働時間を算定し難いと主張する。

 しかし、Y社においては、本件システムで報告された社員の1ヵ月間の所定時間外労働が一定の時間数を超過した場合、管理職らが、当該社員に対し、本件システムの入力内容の正確性の確認を求め、当該社員が労働時間を修正して再報告することがあるなど、労働時間を1ヵ月程度まとめて報告をすることは、許容されていたことが認められる。

 また、管理職らの上記指示内容からは、Y社において、始業・終業の都度のボタン操作で打刻した数値のみが正確であると捉えていたわけではないこともうかがえる。

 そして、Xが、本件システムに始業・終業の都度打刻をしていないことについて、平成30年5月より前に、Y社が、Xに対し、労働時間を把握するため、その都度入力に改めるよう指導した形跡は見当たらない。

 そうすると、Xが半月または1ヵ月分をまとめて本件システムに入力していたのは、Y社が、Xに対し、始業・終業時刻をその都度入力するよう指導を徹底していなかったことに原因の1つがあるといえる。

 以上のことから、Xの上記報告の態様をもって、客観的に、労働時間を把握できるほど具体的な指揮監督を及ぼし得ない労働態様であったと認めることはできない。

 したがって、Y社の主張は採用できない。

 以上から、Xの制作業務は、労基法38条の2「労働時間を算定し難い場合」に当たらない。

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3. 要点解説

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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