HR領域の現在地——AI活用の4ステップ
リンクアンドモチベーションは、創業26年目を迎える組織変革コンサルティングファームだ。組織改善クラウドサービス「モチベーションクラウド」などのサービスを提供しており、「人へのモチベーションやエンゲージメントへの投資なくしては、企業のサステナブルな成長はない」という考え方を基本に、企業における組織変革の支援を行っている。
今回のセッションでは、同社のマネジャーである山中氏が、HR領域の第一人者 Josh Bersin氏の講演や、2025年9月にアメリカで開催されたイベント「HR Technology Conference and EXPO 2025」の内容などから、AI×HRのトレンドを読み解いた。

山中 麻衣(やまなか まい)氏
株式会社リンクアンドモチベーション マネジャー
2009年入社。大手企業向け組織人事コンサルティングを経験した後、ブランド・マーケティングコンサルティング担当として企業の商品サービスのリブランディングに従事。 また、グループ全体の経営企画に携わり、M&Aや経営統合後の子会社の経営管理の体制構築を経験。その後、国内最大級のデータベースを持つ組織改善クラウドサービス「モチベーションクラウド」のマーケティング責任者として、立ち上げ当初からの拡大を牽引。現在は、上記の経験を活かし、新サービスの事業企画、経営企画を担当。
昨今のトレンドといえば、「AI」である。AIは、組織や人の働き方を大きく変えるテクノロジーとして、HR領域にも大きな影響を与えるといわれている。
「すでに多くの企業がAIを導入しています。今後はAIをどう活用し、成果創出につなげていくのかが問われる段階に入っています」(山中氏)
山中氏は、AI活用レベルには4つの段階があると説明する。①アシスタント(補助)、②オートメーション(自動化)、③エージェント(仲介)、④オートノミー(自走)の4段階に分類されるという。HR領域の多くの企業は、すでに「オートメーション」レベルまで達しており、現在は「エージェントレベル」への活用が進められていると解説した。
初期の段階では、AIによる添削やメール送付の自動化など、作業の効率化や個人の生産性向上に焦点が当たっていた。
一方、エージェントではその名の通り「AIエージェント」が複数機能を接続し、業務の最適化を実現する。
HR領域では、面接官がAIと面接練習を行い、その内容をもとにスコアやフィードバックを提示するといった活用が考えられる。これが、オートノミーレベルの活用まで到達すると、AIが社内外のデータを基に「今後この部署にこういった人材が必要だ」と予測し、自動的に採用を行ってくれるようになる。
AIアシスタントとは違う? AIエージェントで変わる人事の役割
実際にHR領域でも、Eightfold AIやVeeといったAIエージェントを活用したサービスが登場している。AIエージェントは、ChatGPTやGeminiなどのAIアシスタントとどう違うのだろうか。
「AIアシスタントは、指示待ち型・タスク思考なので単発タスクに向いているのに対し、AIエージェントは目的に向かって自律的に判断し、マルチステップを自動化・最適化させることに向いています。優劣ではなく、使いどころが異なるというイメージです」(山中氏)
これまでは人間がAIに解決したい課題を相談し、打ち手が提案されたらそれを人間が実行していた。AIエージェントが駆動する世界では、人間が実現したいゴールに向かってAI自ら課題を発見し、それに対して必要な情報を入手して、解決策を人間の代わりに実行してくれるのだ。
AIエージェントは、企業の部門ごとにあるシステムや情報を横断的につなぐことで、既存サービスだけでは解決できなかった課題にもアプローチを可能にする。組織内にあるあらゆるナレッジと接続することで、あらゆる課題発見から解決まで実現できるのだ。
しかし、シームレスに組織内のシステムや情報を統合するのはリスクもある。山中氏は、「米国でも、どこまでAIを中心に据えた企業活動を行うかはスタンスの分かれるところ」と説明した。AIを経営ボードの一員とまでみなす企業もあれば、あくまでもAIは補助ツールとしての活用にとどめるという企業もある。
「会社がどういった方向でAIを活用していきたいのかによって、シナリオが異なります。経営陣の考えが一致しなければ活用は難しいでしょう」(山中氏)
そして、AIエージェントの活用が進めば、人事の役割も変容が求められる。これまでは人事領域の専門家という立場だった人事も、AIエージェントで組織内のあらゆる領域がつながり合う世界では、組織の全領域をまたいだ情報と向き合う必要がある。
山中氏は、「人事が他の領域もある程度理解し、コミュニケーションできる能力が求められるようになるのではないか」と指摘。AIの活用が進んでいる企業ほど、CHROや人事リーダーの採用要件に、AIの理解と、他部門の領域の理解が含まれていると述べた。
これからの人事が備えるべき“4つの視点”
では、AIエージェントの活用が進んでいく中、人事はどのような知見を身につけるべきなのか。山中氏は、AIエージェントを含めた「AIの進化」によって起こる「4つの変化」を紹介した。
それは、「組織構造の変化」「職務内容の変化」「採用市場の変化」「社員体験の変化」の4点である。次に詳しく見ていく。
①組織構造の変化
一言で言うと、「サイロ化の解消」が起こるという。
これまでの組織は、マーケティングや営業、人事など、機能別の組織で事業運営を行い、それぞれをERPシステム(基幹システム)でつなぐことによって、1つの組織として成立してきた。これが、AIエージェントの導入によってフラットにつながるようになる。
「縦割りや領域別といった概念が取り払われることになります。人事は、各機能がAIでつながった状態で、全体をマネジメントしていくことが求められるようになるのではないでしょうか」(山中氏)
②職務内容の変化
また、企業においてAIエージェントの活用が浸透すれば、従業員に求められる役割も変わってくる。AIを中心とした業務フローが確立することによって、AIに代替される業務が発生するからだ。
「人事は、職務を見直してAI最適な役割を再開発していくことが求められます。この変化は待ったなしで起こると思われます」(山中氏)
③採用市場の変化
AIエージェントによって、従業員1人ひとりの生産性は大きく向上する。その流れの中で、米国ではAIを活用して高い成果を出す個人である「スーパーワーカー」が誕生しているという。
「AIエージェントを使いこなすスーパーワーカーの採用、そして育成が必須になってくる。社内にそうした人材がどれくらいいるかによって、企業の生産性向上や成果の創出に影響を及ぼします」(山中氏)
④社員体験の変化
AIエージェントは、企業の事業活動をサポートするだけではない。AIによる「パーソナライゼーション」が、個別ニーズに合わせた従業員体験を実現する。
これまでは、従業員の声を聞き全体の傾向に合わせて施策を打つことが多かったが、これからはAIが1人ひとりの体験に寄り添い、福利厚生から報酬、育成に至るまで個別最適化する「パーソナライズ人事」を提供することが重要になる。
すでに米国では、従業員1人ひとりに最適な保険や健康プログラムが提案されるAIサービスが提供されているという。山中氏は、「個別最適化された福利厚生や報酬システムを丁寧につくれることが、従業員から選ばれる企業の条件となっていくのではないか」と示唆した。
つまり、組織構造はサイロ化の解消の方向に変化し、職務の役割を再定義する必要が出てくるだろう。採用市場においては、AIエージェントを使いこなすスーパーワーカーが求められ、社員体験においてはパーソナライズが鍵となる。
主に米国のトレンドをもとにHR領域のAI活用を解説した本セッション。最後に山中氏は「何かしらの変化が日本の企業組織の人事でも起きてくるはず」と強調して締めくくった。

