2. 裁判所の判断
(1)Y社の主張する解雇事由について
①Cとの揉み合いについて
Y社は、Xが令和2年5月28日、Cに対し、ハラスメント行為をした旨主張する。
しかしながら、Xは、Cの発言をきっかけにCと揉み合いになったことが認められるものの、Xが暴力を振るったといった事実を認めるに足りる証拠はない。
Cのみ処分がされていることから、Y社内においては、むしろ、Cのほうに非があるとして処理されたことが認められる。
また、Y社は、Xが業務の権限を無視して越権行為をした旨主張する。
しかし、XとCとの揉み合いの直接の原因は上記のとおりCの発言であるし、揉み合いになったこと自体が問題なのであるから、その遠因を問題視することは失当である。
したがって、Y社の上記主張は理由がない。
②小型包丁および刺股購入について
Y社は、Xが令和2年10月6日、小型包丁を手に取って脅迫した旨主張する。
しかしながら、他の従業員からの声かけに応じて冗談で述べたにすぎないことが認められ、小型包丁を手に取って脅迫したといえるような出来事ではない。
また、A次長による刺股購入の稟議書作成についても、上記から半年も経過した後の出来事であり、従業員がXの言動に恐怖心を抱いていたことの裏付けにも足りない。
③出張の際の交通費精算について
Y社は、Xが交通費の精算に関する不正行為をした旨主張する。
しかしながら、Xが交通費の精算に関するY社の指示に素直に従わなかったということはできるものの、出張の回数自体少ないうえ、Xが、令和3年5月1日にA次長から注意された後、これに繰り返し違反したといった事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、Y社の上記主張は理由がない。
④Dとの関係について
Y社は、XがDに対しハラスメントをしたり誹謗中傷する内容のメモを掲載したりした旨主張する。
Xは、Dに対し、「いちいち覚えていません」といった記載をして回答するなど敵対的な対応をとるようになったこと、DがY社に対しXといっしょに仕事をしたくない旨を申し出たことが認められる。
しかしながら、DがXといっしょに仕事をしたくない理由は、Xの業務上の無駄や漏れが多いといった理由であり、ハラスメントを受けたといったことを理由としていない。
Xの担当業務が変わったのはXからの申し出をきっかけとしたものであるから、そもそも、Y社においても、XがDに対しハラスメントをしたと認識していたとは考え難いというべきである。
実際、E課長においても、XがDを嫌っていたわけではない旨述べていることが認められる。
伝言メモについては、Xは、業務分担の適正化について問題提起し、Dの負担が重くなっている旨を述べたにとどまり、Dを誹謗中傷する内容であるということはできない。
したがって、Y社の上記主張は理由がない。
⑤顧客からのクレームについて
Y社は、Xが顧客との間でトラブルを起こしたりした旨主張する。
しかしながら、Xの顧客対応について顧客からクレームがあったことが認められるものの、Xは、Y社に対し謝罪している。
Y社の注意指導にもかかわらずクレームが頻発していたといった事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、Y社の上記主張は理由がない。
⑥社内への一斉送信メールについて
Y社は、Xが、Y社代表者に対してさえ社内の一斉送信メールを用いてハラスメントをしていた旨主張する。
Xは、Y社代表者に対し、社内の一斉送信メールを用いて、中学生でも分かるように回答してほしい旨を伝えるなど挑発的なメールを送信しており、代表者への態度としては不相当な面は否めない。
しかしながら、その内容については、Y社の労務管理の問題点を指摘する正当なものであるし、一斉送信したことも社内全体に関わるものであることから、直ちに不相当とまではいい難い。
また、Xは、A次長に対し、同様のメールを送信していたものの的確な回答がなかったこともXの上記対応の一因になったと考えられる。
Y社にも落ち度があったといえるし、Y社から一斉送信メールをやめるようにといった明確な指示を受けていたともいえない。
したがって、Y社の上記主張は理由がない。
⑦就業時間中の私的行為
Y社は、Xが令和4年6月から8月までの間に、毎月300時間から600時間程度業務に関係なく私的にパソコンを使用していた旨主張し、証拠によって裏付けられる旨主張する。
しかしながら、上記主張は、Xが所定労働時間の数倍に及ぶ時間についてパソコンを私的に閲覧していたというものであり、現実的にあり得ない荒唐無稽な主張である。
また、その時間数からしても、パソコンで画面を表示した時間数が表示され、同時に表示している場合は重複した時間数が計上されているものと推認できる。
Y社が主張するものが真に業務に関係ない画面であるか否かも判然としない。
したがって、Y社が主張する上記事実を認定するための証拠として採用することはできず、他にY社主張の上記事実を認めるに足りる証拠はない。
また、仮に、Xが業務に関係ないことをしていたのであれば、Y社としては、注意指導をしてこれを改善させるべきである。
こうした事実を認めるに足りる証拠はないし、Xの担当業務が著しく滞っていたといった事実を認めるに足りる証拠もない。
以上によれば、Y社の上記主張は理由がない。
⑧職務能力の欠如
Y社は、Xが他の従業員とトラブルを起こすことや病気療養中のRクラスであることから、Xに対し入力作業等の単純作業を行うことを指示せざるを得ない状況であった旨、居眠りが多かった旨主張する。
しかしながら、Xは、Y社から、常に中位であるB以上の評価を受けていたことが認められるから、解雇事由に該当するような職務能力の欠如があったと認めることはできない。
また、Xと他の従業員との関係については、解雇事由に該当するようなものとはいえないし、病気療養中であることについては、Rクラスに位置付けられ、賃金等の面でもそれ相応のものになっていたわけである。
Rクラスであることを職務能力の欠如を表す事情として主張することは暴論である。
さらに、居眠りについては、証拠によれば、投薬の影響であることや徐々になくなってきていたことが認められるし、Xの居眠りによって業務に重大な支障が生じていたことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、Y社の上記主張は理由がない。
(2)解雇は無効と判断
以上のとおり、Y社が解雇事由として主張する事実は、いずれも解雇事由たりえないものである。
とりわけ、Y社は、本件解雇の就業規則上の根拠として、Xが就業規則50条8号および9号の懲戒解雇事由に該当する旨主張しているところ、懲戒解雇という効果の重大性に鑑みても、Xが懲戒解雇事由に該当しないことは明らかである。
なお、Xに一部不適切な言動等が認められるものの、Y社から注意指導をされながらも、これを繰り返したといった事実を認めるに足りる証拠はないから、Xについて改善の余地がなかったとはいえない。
また、Xは、令和4年8月に本件降給降格処分を受けている。
Y社においても、本件降給降格処分当時、Xに解雇事由はないと認識していたといえるし、Xに対し改善の機会を与える趣旨のものと評価することができる。
しかしながら、その後の出来事として、XがY社に対して本件弁明書を提出したことについては、本件降給降格処分の再検討を求めるなど反省の態度にやや疑問を生じさせる記載があるものの、この限度にとどまり新たに非違行為をしたとかトラブルを生じさせたということまではできない。
また、Y社は、本件降給降格処分後に、就業時間中の私的行為が発覚したことから本件解雇に及んだ旨主張するが、これが解雇事由にならないことは説示したとおりである。
したがって、Xは、Y社の就業規則上の解雇事由に該当せず、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合に該当するから無効である。
よって、XのY社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は理由がある。

