1. 事件の概要
本件は、被告(以下「Y社」)と労働契約(以下「本件労働契約」)を締結し、従業員として勤務していた原告(以下「X」)が、Y社から令和4年8月30日付で懲戒処分として降給降格された(以下「本件降給降格処分」)こと、同年9月27日付で普通解雇された(以下「本件解雇」)ことについて、いずれも無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案です。
今回は解雇の有効性について取り上げます。
(1)当事者等
Y社は、不動産の売買、賃貸、仲介および管理等を目的とする株式会社です。
Xは、Y社と本件労働契約を締結し、平成17年10月17日からY社において正社員として勤務していた男性です。また、Xは、本件当時、病気療養を理由とする時短勤務をしていました。
(2)Xの勤務状況等-Y社の主張する解雇事由に関連する事実
①Cとの揉み合い
Xは、令和2年5月28日、従業員であるCに対し、マンションの所有者から備品一覧を求められている旨伝えたところ、その必要性等について争いになりました。
Cから「あの電話の切り方はよくないだろ。まだ終わってないのに切るな」と言われたことをきっかけに、互いに挑発し合い、Cに胸倉をつかまれるなどの揉み合いになりました。
XおよびCは、支店長が仲介してその後、和解しました。またCは、Y社から、上記について訓戒処分を受けました。
②小型包丁
Xは、令和2年10月6日、撤収した備品類を従業員が自由に持ち帰ってよいことになり、他の従業員から「それ良いじゃないですか」と声をかけられた際、冗談で笑いながら小型包丁を手に持って「刺してこようか」と言いました。
③Y社による刺股の購入
A次長は、令和3年4月3日、上のXの言動によって恐怖を感じている従業員がいるとして、刺股(さすまた)を購入したい旨の稟議書を作成しました。
④出張の際の交通費精算
Y社は、従業員に対し、出張の際はICカードを利用するように指示していました。
Xは、令和2年8月3日、令和3年4月12日および同月19日の出張の際に、Y社に対し、ICカードを利用したにもかかわらず、切符を現金で購入したとして結果的に実際の費用よりも数円多く請求しました。
Xは、令和3年5月1日、A次長から上記について指摘されました。
Xは、A次長に対し、A次長自身も中小企業退職金共済の掛け金を誤って低い金額にするなどの過誤をしていたことがあったにもかかわらず、自身だけ責められているといった思いから大きな声を出すなどして反抗しました。
後に、A次長に対し、謝罪しました。
⑤Dとの関係
Xは、令和3年9月28日、E課長(以下「E課長」)から、有給休暇を取得した際には事前に周囲に声がけするように注意され、これをDがE課長に告げ口したと考えました。
Dに対し、「いちいち覚えていません」といった記載をして回答するなど敵対的な対応をとるようになりました。
Dは、同年10月16日、Y社に対し、Xは業務上の無駄や漏れが多くいっしょに仕事をしたくない旨を申し出ました。
もっとも、Y社は、Dの上記申し出に応じてXの担当業務を変更することはせず、Xからの申し出に応じる形で令和4年6月6日に、Xの担当業務を物件情報の入力作業を中心としたものに変更しました。
Xは、令和4年4月14日、E課長およびF課に対し、伝言メモという形式で、本来ハザードマップの作成はF課の業務であり解約部署で担当するはずのものではないこと、Dがいつもバタバタで忙しそうにしていること、業務分担の適正化については必要があれば後日話し合うべきことを伝えました。
なお、上記伝言メモは、システム上は宛先に入れられた人以外も閲覧可能なものでした。
⑥顧客からのクレーム
Y社は、令和4年6月1日、顧客から、電話に対応したXが分からないことを確認せずにごまかしたり馬鹿にするような態度を取ったりした旨のクレームを受けました。
Xは、同月13日、Y社から上記案件について最初は丁寧に対応していたものの、途中で顧客との間に意見の相違があり、最終的には不適切な対応になった旨の注意を受け、Y社に対し、謝罪しました。
⑦社内への一斉送信メール
- Xは、令和4年6月27日、A次長に対し、休憩時間中に電話番を兼ねるため自席から離れないように指示されていることが、労働基準法に違反する可能性がある旨のメール、同月28日、Y社に是正する様子がないのであれば労働基準監督署に相談に行ってみようと思っている旨のメールを、それぞれ送信しました。
- Xは、令和4年8月9日、A次長に対し、月曜日の朝礼が始業時間前に行われていることを問題視する旨のメールを送信しました。
- Xは、令和4年8月18日、Y社取締役に対し、同月10日にY社代表取締役社長から社内への一斉送信メールを用いることはXの印象が悪くなるのでやめたほうがよいのではないかと指摘された旨と、上記ア・イの内容について中学生でも分かるように回答してほしい旨のメールを送信しました。
- Xは、令和4年8月25日、Y社取締役に対し、上記ウのメールに対する回答を催促する旨のメールを送信しました。
- Xは、令和4年8月29日、A次長に対し、Y社は労働基準法違反を認めるべきであり、コンプライアンス担当部門長としての回答を待っている旨のメールを送信しました。
なお、上記ア~オのメールは、いずれもXによってY社内に一斉送信されていました。

