はじめに
データに基づく顧客理解やマーケティングの高度化、データドリブンでの意識決定など、企業にとって「データ活用の推進・高度化」は必須のテーマとなっています。そのような中、多くの企業で「自前のデータサイエンティスト」の育成、そして組織作りへの取り組みが真剣に検討されていることと思います。
実際、私が支援させていただいているデータ分析の案件においても、機械学習や統計モデルの構築に加えて、「分析チームの立ち上げ」や「分析人材の教育・育成」をセットで依頼いただく機会が増えています。
政府も、2018年6月に閣議決定された統合イノベーション戦略で、特に取組を強化すべき主要分野としてAI技術を掲げました。データ基盤整備によるオープンサイエンスの推進も、データ活用技術を持つ人材ニーズに拍車をかけていくと予想されます。
コンピューター技術を生業とするICT企業やインターネットでサービスを提供するビッグデータ企業では、すでにデータ活用リテラシーの高い人材育成が進められています。その一方で、その他の企業は深刻な人材不足の中、どのようにデータサイエンティストを育成していくべきなのでしょうか。
この記事(全3回)では、これからデータサイエンティストの育成に取り組む企業が、どのように推進していくべきか、そのポイントについて解説していきます。
データサイエンティストは一様ではない
これから自社でデータサイエンティストを育成したいと考えているとして、それはどのような人材なのか、具体的に挙げることができますか? やってみると、次のようにいろいろな人材像が出てくると思います。
- 自社の受注データから将来の需要予測モデルを作れる社員
- 人事情報から自社社員のモチベーションを分析できる社員
- パーソナライズされたセールスを自動化するためにレコメンドエンジンを開発できる社員
- ビッグデータを高速に処理するプログラムを作れる社員
- 戦略を独自性の高いものとするために最新の機械学習理論を研究して実装できる社員
- データを正しい軸で集計・可視化してビジネスインサイトを得られる社員
一般社団法人データサイエンティスト協会では、データサイエンティストのスキルを、サイエンス力(228項目項目)、ビジネス力(100項目)、データエンジニア力(129項目)の3つの軸から定義しています(項目数は2017年度版のもの)。ただし、データサイエンティストとはこれらすべてのスキルを有するものではなく、その組み合わせにより「個性」の幅を持つものと私は考えます。つまり、データサイエンティストとは、そのスキルや役割に多様性がある、職種の名称としてはやや抽象的な言葉であるわけです。
例として、野球チームを考えて見ましょう。チームを補強しようとした場合、打力を補強したいか守備を補強したいか、守備であればピッチャーなのか内野手なのか外野手なのかと考える必要があります。「野球選手を育てたい!」という目標は野球チームを作る上での大方針であり、具体的な施策ではありません。
データサイエンティストという言葉も「野球選手」のように広いポジションを包含するものであり、「どのようなポジションのデータサイエンティストを育てるのか」をしっかりと考える必要があるのです。