スタティックルートとルーティングプロトコル
一言でいうと
ルーティングテーブルにリモートネットワークのルート情報を登録するための方法。
試験のポイント
- スタティックルートとルーティングプロトコルによる、ルーティングテーブルの作成方法の特徴をしっかり把握することが重要です。
- スタティックルートとルーティングプロトコルは同時に利用できます。また、ルーティングプロトコルは1つだけでなく複数のものを同時に利用できます。
- アドミニストレーティブディスタンスの意味をしっかりと理解しましょう。
ルーティングテーブルの作成
ルーティングを行うためには、ルーティングテーブルに必要なルート情報が登録されていることが大前提です。ルーティングテーブルに存在しないネットワーク宛てのIPパケットは破棄されてしまうからです。ルーティングテーブルにルート情報を登録する方法には、次の3つがあります。
- 直接接続
- スタティックルート
- ルーティングプロトコル
直接接続は、最も基本的なルート情報の登録方法です。ルータにはネットワークを接続する役割があります。直接接続のルート情報は、その名前のとおりルータが直接接続しているネットワークのルート情報です。
直接接続のルート情報をルーティングテーブルに登録するのに、特別な設定は不要です。ルータのインタフェースにIPアドレスを設定して、そのインタフェースを有効にするだけです。自動的に設定したIPアドレスに対応するネットワークアドレスのルート情報が、直接接続のルート情報としてルーティングテーブルに登録されます。
ルーティングテーブルに登録されているネットワークのみ、IPパケットをルーティングできます。つまり、ルータは特別な設定をしなくても、直接接続のネットワーク間のルーティングは可能です。
逆にいえば、ルータは直接接続のネットワークしか分かりません。ルータに直接接続されていないリモートネットワークにIPパケットをルーティングするには、そのルート情報をルーティングテーブルに登録しなければいけません。つまり、ルーティングの設定とは、基本的に「リモートネットワークのルート情報をルーティングテーブルに登録すること」といえます。また、パケットはルーティングテーブルに基づいて転送されるので、「ルーティングテーブルを作成する=パケットの転送経路を決定する」ともいえます。
リモートネットワークのルート情報を登録するための方法は、スタティックルートとルーティングプロトコルです。ルーティングが必要なリモートネットワークごとに、スタティックルートまたはルーティングプロトコルによって、ルート情報をルーティングテーブルに登録します。それにより、リモートネットワークへのIPパケットのルーティングが可能になります。
スタティックルートでリモートネットワークのルート情報を登録することを指して、スタティックルーティングと呼びます。また、ルーティングプロトコルでリモートネットワークのルート情報を登録することを、ダイナミックルーティングと呼びます。
スタティックルートはルータにコマンドを入力するなどして、ルート情報を手動でルーティングテーブルに登録します。一方、ルーティングプロトコルではルータ同士がさまざまな情報を交換し、自動的にルーティングテーブルへルート情報を登録します。ルーティングプロトコルには、次のような種類があります。
- RIP(Routing Information Protocol)
- OSPF(Open Shortest Path First)
- EIGRP(Enhanced Interior Gateway Routing Protocol)
- BGP(Border Gateway Protocol)
RIPは、比較的規模が小さい企業のネットワークでよく利用されるシンプルなルーティングプロトコルです。OSPFは、中~大規模な企業のネットワークで利用される標準化されたルーティングプロトコルです。EIGRPは、Cisco独自のルーティングプロトコルで大規模な企業ネットワークでよく利用されています。そして、インターネット上のルータは、ルーティングプロトコルとして主にBGPを利用しています。インターネット上には膨大な数のネットワークが存在しています。膨大な数のネットワークのルート情報を効率よく扱うために、BGPが使用されています。
ルーティングテーブル作成の例
ここからは次図に示す簡単なネットワーク構成を例にして、スタティックルートとルーティングプロトコルによるリモートネットワークのルート情報の登録を考えます。
この構成ではR1、R2、R3の3台のルータで4つのネットワークを相互接続しています。各ルータのインタフェースにIPアドレスを設定することで、ネットワークを接続していることになり、ルーティングテーブルに直接接続のルート情報が登録されています。
スタティックルートの設定
スタティックルートを利用する場合、それぞれのルータにとってのリモートネットワークのルート情報を、管理者が手動(コマンド入力やGUIベースの設定)でルーティングテーブルに登録します。そのためには、まず各ルータのリモートネットワークをきちんと把握しておかなければいけません。各ルータのリモートネットワークと指定するべきネクストホップアドレスをまとめると、次表のようになります。
ルータ | リモートネットワーク | ネクストホップ |
---|---|---|
R1 | 192.168.23.0/24 | 192.168.12.2 |
192.168.3.0/24 | 192.168.12.2 | |
R2 | 192.168.1.0/24 | 192.168.12.1 |
192.168.3.0/24 | 192.168.23.3 | |
R3 | 192.168.1.0/24 | 192.168.23.2 |
192.168.12.0/24 | 192.168.23.2 |
リモートネットワークを把握したら、各ルータで管理者がコマンドラインからコマンドを入力したり、GUIの設定画面でスタティックルートのパラメータの指定を行ったりして、リモートネットワークの情報を手作業で登録します。
この例のような小規模なネットワークであれば、設定の負荷はそれほど大きくありません。しかし、ルータの台数が増え、ネットワークの数も増えてくると、スタティックルートの設定は大変な作業になってしまいます。
ルーティングプロトコルの設定例
ルーティングプロトコルの設定例を考えるにあたって、一番シンプルなRIPを利用するものとします。設定は、各ルータのすべてのインタフェースでRIPを有効化するだけです。特にリモートネットワークを洗い出して、ネクストホップを考えるような作業は不要です[1][2]。
RIPを有効化すると、各ルータはRIPのルート情報を送受信します。R1であれば、R2へ192.168.1.0/24のRIPルート情報を送信します。それを受信したR2はルーティングテーブルに192.168.1.0/24を登録します。また、R2からR3へ192.168.1.0/24と192.168.12.0/24のRIPルート情報を送信します。R3は受信したRIPルート情報をルーティングテーブルに追加します。
R3からはR2へ192.168.3.0/24のRIPルート情報を送信しています。R2はルーティングテーブルに192.168.3.0/24を追加します。また、R2からR1へ192.168.3.0/24と192.168.23.0/24のRIPルート情報を送信しています。すると、R1のルーティングテーブルに192.168.3.0/24と192.168.23.0/24が登録されます。
以上のように、各ルータで「すべてのインタフェースにおいてRIPを有効にする」という設定をすれば、あとはルータ同士がルート情報を交換して自動的にルーティングテーブルを作ってくれるようになります。
注
[1]: ルーティングプロトコルを使うときにも、各ルータにとってのリモートネットワークとネクストホップを認識しておくことが重要です。そうでないと、出来上がったルーティングテーブルが正しいかどうか判断できません。ルーティングプロトコルを設定するときにリモートネットワークとそのネクストホップの情報は特にいらないという意味です。
[2]: RIP以外のルーティングプロトコルも基本的な設定は同じです。ルーティングプロトコルをすべてのインタフェースで有効化するという設定を行うだけです。ただし、BGPは例外です。BGPの設定はインタフェース単位ではありません。