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人事労務事件簿 | #21

行方不明という事実が認められず、雇用契約が終了したとは認められないと判断(東京地裁 令和2年2月4日)

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 ある日を境に、仕事に出てこなくなった従業員がいたとします。その従業員と一定期間以上、連絡が取れない、いわば行方不明といえる場合、企業は就業規則にのっとって雇用契約を終了できます。しかし、今回紹介するのは、企業側が出勤しなくなった従業員に対し、行方不明として雇用契約の終了を伝えたところ、その従業員から訴えられ、裁判所にも契約終了を無効と判断されたケースです。何が判断の分かれ目になったのでしょうか。

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1. 事件の概要

 本件は、被告(以下「Y社」)は、原告(以下「X」)が行方不明となり連絡が取れなかったことで退職したとみなし、Xの就労を拒んだところ、Xは、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めたものです。

 今回は様々な争点の中から、「行方不明と雇用契約の終了」に関する内容を取り上げて解説します。

(1)当事者

 Y社は有料老人ホームの設置経営等を目的とする株式会社です。

 Y社は、平成25年12月5日に、Xを雇用しました。主な雇用契約(以下「本件雇用契約」)の内容は、以下のとおりでした。

  • 従事する業務:機能訓練指導員
  • 賃金    :基本給23万円、毎月15日締め翌月10日払い

(2)Xの就労開始と雇用契約の変更

 Xは、平成25年12月16日から、Y社の経営するデイサービスセンター「A」(以下「本件施設」)において、機能訓練指導員として就労を開始しました。

 その後、XとY社は、平成26年3月16日、本件雇用契約に基づく賃金を基本給23万円・機能訓練指導員手当1万円の合計24万円に変更すると合意しました。

(3)Xのセクハラ等と賃金減額

 Y社代表者は、Xに対し、平成27年7月23日に「XがY社に無断でアルバイトをした旨」「本件施設の女性利用者の家族が、Xが同女性利用者に対してセクハラをしたことを理由として刑事告訴を検討している旨」を指摘して、3日間謹慎するよう命じ、処分は追って決める旨を告げました。

 Y社代表者は、Xに対し、平成27年8月14日、本件雇用契約につき、従事する業務を介護職員に変更し、その賃金を基本給18万円のみに減額する旨記載のある雇用契約書(以下「本件契約書」)を交付して、署名押印を求めました。

 Xは、これに署名押印して、同月15日、Y社代表者に提出しました。

(4)Xの回答

 Y社の従業員で本件施設の管理者であったB(以下「B」)は、Xに対し、平成27年9月21日に「本件施設の女性利用者がXの存在を理由としてデイサービスの利用を止めたいと申し入れをしてきた」「本件施設の女性従業員がXに体を触られたと述べている」ことを指摘しました。

 これに対し、Xは、本件施設の女性従業員が休憩時に椅子に座っていた際、Xの体が同女性従業員に接触したことがあったかもしれないと回答しました。

(5)Xの欠勤

 Xは、平成27年9月22日以降、出勤しませんでした。

 Xは、以後、現在まで、Y社において就労していません。

(6)Y社の就業規則

 Y社の就業規則には、退職について、従業員の行方が不明となり、14日以上連絡が取れないときで、解雇手続を取らない場合には退職とし、14日を経過した日を退職の日とするとの定め(50条6号。以下「本件退職条項」)があります。

(7)Xの対応

 Xは、Y社に対し、平成27年9月22日以降、同月25日から同月28日まで、休暇等届と題する書面等についてファクシミリを利用して送信しました。

 同月28日には、同年10月分の勤務の予定についてファクシミリを利用して送信するよう求めました。

 10月2日には、重ねて上記要求をし、さらに、10月20日に、電子メールを送信して、休職を申し出ました。

(8)退職条項の適用

 Y社は、Xに対し、平成27年11月18日頃、Xが同年9月22日から同年10月5日まで無断で欠勤を続け、再三の出勤命令にも応じなかったので、本件退職条項により、同月6日をもって自己都合により退職したものとみなすとの旨記載のある書面を送付しました。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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